イーロン・マスクもテキサスへ カリフォルニアを脱出する企業・経営者続々

イーロン・マスク氏|Hannibal Hanschke / Pool via AP

◆もう住めないし働けない、富裕層から不満噴出
 実はカリフォルニアを去った企業や経営者はほかにもおり、マスク氏も含めかなり辛らつなカリフォルニア批判をしている。

 まずマスク氏は、カリフォルニアにおける生活費の上昇、不動産不足、交通渋滞、税率の高さなどを問題点として上げている。「ちょっと自己満足し、特別だと思い始めたとたん優勝できなくなってしまった」と常勝スポーツチームに例え、カリフォルニアは現状に胡坐をかいていると持論を述べた。WSJはマスク氏の脱カリフォルニアは、裕福なテック系プロフェッショナルに広がる不満を強調するものだと指摘している。

 データ分析企業の大手パランティアも、パロアルトからデンバーに本社を移した。CEOのアレックス・カープ氏は、インタビュー番組で「シリコンバレーの増大する不寛容と単一的な文化」に言及し、脱カリフォルニアを示唆していたということだ。同社では顧客のところに出向く必要のない社員はリモートワーク、またカープ氏自身もニューハンプシャー州在住ということで、シリコンバレーに留まる必要性が薄れていた(テック・クランチ)。

 パランティアの共同設立者でベンチャーキャピタル企業の8VCのゼネラルパートナー(無限責任者)、ジョー・ロンスデール氏もテキサス州オースティンに引っ越した。カリフォルニアの荒廃は深刻で、悪い政策がビジネスとイノベーションを妨げ、チャンスをなくし、主要都市での生活を醜く不快にしてしまったと批判する。過去の黄金の州としての万能感はなくなり、治安の悪さ、繰り返される森林火災による停電、行政の無責任さ、住宅不足、異なる意見を否定し議論さえ拒む極左の不寛容さなどが我慢できなかったとしている(WSJ)。

 保守系人気ポッドキャストのホストのベン・シャピーロ氏も、自身が共同所有するメディア、デイリー・ワイヤーをロサンゼルスからテネシー州ナッシュビルに移転した。カリフォルニアでビジネスをするのはほぼ不可能とし、馬鹿げた規制環境、異常な税率、生活の質の下落をその理由としている(ニュースサイト『アクシオス』)。

◆コロナ後は復活? カリフォルニアの魅力薄れず
 カリフォルニアの企業や才能ある人々の移転は、他州での新しいイノベーションの波を起こす可能性もあるとアクシオスは述べる。ロンスデール氏も、カリフォルニアへの投資をやめるわけではないが、企業家の投資は才能ある人々になされるとし、未来のアメリカは良い州政府とリーズナブルな費用で暮らせる地に作られるとしている(WSJ)。

 もっともWSJによれば、グーグルの親会社アルファベッドやフェイスブックなどは引き続きパンデミックでもシリコンバレーでの賃貸オフィスを増やしているし、スタートアップ企業の設立や活動も活発だという。いまIT関係者のなかでサンフランシスコに移転するのは逆張りだとされているが、コロナ後は生活費も下がり、住宅にも空きが出て、新しい起業家が集まるのではないかとの見方もある。いまが調整の時期ということなのかもしれない。

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Text by 山川 真智子