コロナ禍のアマゾン、商機と苦悩

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 アマゾンはこれまで長年にわたって、世界中の玄関先に数百万点の商品を届けるための梱包や出荷、配送業務の改善を重ねてきた。その結果、いまや一定の顧客層から高い支持を得ている。

 新型コロナウイルス流行の影響により、地球上にある多くの都市であらゆる規模のロックダウンが強いられるなか、世界最大のオンライン小売企業は多くの買い物客にとってのライフラインと化している。しかし一方で、配送遅延や、勤務中にウイルスに感染することを危惧する従業員からの不満が高まるなど、対応に追われている。

 デジタル市場分析を行うコムスコア社によると、2020年3月の1ヶ月間で、アマゾンのウェブサイトへのアクセス数は25億4000万回に達したという。前年同月比65%増である。アマゾンは4月30日に行った四半期決算報告において、新型ウイルス流行による業績への影響について初めて言及した。

 生活必需品を販売するディスカウントストアの「ウォルマート」や「ダラー・ゼネラル」の株価は、それぞれ8%と15%の高騰を見せている。一方でアマゾンの上昇率は際立っており、今年に入って現時点で22%増である。11%下落しているS&Pとは対照的である。また、多くの企業が事業を縮小し、連邦政府からの補助金を申請するなか、アマゾンは17万5,000人超を新たに雇用している。

 その一方、巨大なアマゾン帝国には亀裂も生じている。かつてはたった数時間で完了していた配送に数週間もしくは数ヶ月を要することもある。トイレットペーパーやペーパータオルなど需要の高い商品については、腹立たしいほど品切れが続く。

 1兆1000億ドル規模のこの企業が抱える最大の課題は、倉庫で働く従業員からの苦情が絶えないことだろう。倉庫では、新型コロナウイルスの感染対策が十分に講じられないまま、長時間に及ぶ過酷な労働が強いられているという。感染者数が増加するにつれ、一部の倉庫を閉鎖することや、取扱量の割り当てを軽減するなど、業務負担を緩和させるための対策が強く求められている。

「アマゾンは『あるといいもの』から必要不可欠なものへと変化を遂げてきました。いまや、電力会社や水道局のような公益企業になりつつあります。けれども、従業員は会社から圧力をかけられており、それを脅威に感じているのです」と、世界各国に拠点を持つデジタル広告代理店「アイソバー」に務めるジョン・ライリー氏は語る。

 先週、驚くべき判決がフランスで下された。裁判所がアマゾンに対し、従業員に対する感染症対策が十分に得られたことが確認できるまでの1ヶ月間、生活必需品以外の注文を停止するよう命じた。上級裁判所は、販売継続できる商品を拡大したものの、下級裁判所の判決を支持した。この判決を受けて同社は、作業を一部切り離すことは構造上不可能であると申し立て、フランス国内の倉庫をすべて閉鎖した。

 ニューヨーク、シカゴ、デトロイトにあるアマゾン倉庫では、一部の従業員によってストライキが行われた。同倉庫に勤務する従業員から新型ウイルスの陽性反応が示されたため、施設を閉鎖し、念入りに消毒することを強く求めるものだ。3月には、複数の従業員への感染が確認されたシェファーズビルの倉庫を数日間閉鎖するよう、ケンタッキー州知事が命じている。

 アマゾンは、従業員の感染者数を公表していない。清掃業務を徹底すること、体温チェックの実施、マスクの配布を迅速に行うこと、シフトの調整、休憩用テーブルの間隔を広げるなど、感染予防対策を強化してきたと述べる。そして4月末までは、感染を懸念する従業員には、給与の支払いはないものの欠勤することを認め、一方で、仕事を続ける従業員には、時給を2ドル上げると発表した。

 アマゾンはまた、症状の有無にかかわらずすべての従業員が新型コロナウイルス検査を受けられるよう、研究所を設立していることを表明している。

 給与を支払われることなく自宅に留まっているアマゾンの従業員がどれほどいるのか、また、ウイルスに感染した従業員と接触したため自主隔離している従業員は何名いるのかについては明らかにされていない。しかしいくつかの倉庫において、欠勤はよくあることだと従業員は口を揃える。

 スタテンアイランドの倉庫で働くジゼル・ディアス氏(23)は、何週間も仕事に出ていないと話す。持病のぜんそくにより感染へのリスクが高まっていることを不安に思っており、また同居する81歳の祖母にウイルスを持ち帰ることを恐れている。

「恐怖を感じている人は多くいますし、持病から職場への出勤を自粛する人も多いです」とディアス氏は話す。

 アマゾンの競合他社も同様に、配送遅延や欠品、従業員からの不満といった問題に直面している。ウォルマートでは、同一店舗から2名の従業員がウイルスに感染し死亡したことを受け、感染予防対策の強化を訴える声が上がっている。ディスカウントチェーン「ターゲット」が運営する食料品配送サービスの「インスタカート」や「シプト」では、新型ウイルスに対するより徹底した予防対策を求めて退職した従業員もいる。

 買い物客の多くは、アマゾンに対して寛大さを示してきた。生活必需品をオンラインで購入できる選択肢がほかにほとんどないことがおもな理由である。

「必要なものがほぼ何でも購入できる場所はほかにはありません」と、マンハッタンで介護士として働くマルリナ・フォル氏は話す。3月上旬にはアマゾンでマスクや手指用消毒ジェルを購入できたが、2年前に同社が買収した日用品スーパーマーケット「ホールフーズ」の配送サービスは思うように活用できないという。

 デジタル市場調査企業「イーマーケター」によると、アメリカ国内のオンライン取引におけるアマゾンの売上高は全体の約40%を占める。アマゾンに惜しみない忠誠心を示すプライム会員数は国内で1億1000万人を超えており、その数はアメリカ全世帯の半分に匹敵する。年会費は129ドルで、事実上すべての商品が2日以内に発送される。アマゾンは新型ウイルス流行のさなか会員数を増やしており、同社の優位性は今後さらに拡大される、と考える専門家は多い。

 アマゾンはまた、ロックダウンにより実店舗を休業しているサードパーティセラー(アマゾンに出品する小売業者)にとって必須となるキャッシュフローを得られる場でもある。メリーランド州ウォルドーフでビタミン専門店を営むアーロン・クラーリング氏は、3月中旬より店舗を閉鎖しているが、アマゾンで生活雑貨を販売して得た収入により、家賃などの経費を支払うことができている。

「突然すべてを失うところでした。アマゾンのおかげで、パニックに陥ることなく、経費をすべてまかなうことができたのです」と、クラーリング氏は言う。

 小売業向けコンサルティング会社「カスタマー・グロース・パートナーズ」の代表クレイグ・ジョンソン氏は、経営の行き詰まった店舗が全体で何軒あるのかを考えると、アマゾンが抱える問題は「贅沢な悩み」であるという。

「いま起きていることを考えると、アマゾンは非常にうまくやっています。おっしゃる通り、問題もあります。しかし、問題はどこにでもあるものです。このような状況は誰にとっても初めてなのですから」と、ジョンソン氏は語る。

By ANNE D’INNOCENZIO and ALEXANDRA OLSON AP Retail Writers
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP