指針なく新型コロナ対応を迫られる米企業 増えるリモートワーク

AP Photo / Bebeto Matthews

 まずはキーボードとヘッドフォン用の消毒シートと手指消毒剤を設置するところから始まった。その後、万が一に備えて従業員は退社時にノートパソコンを家に持ち帰るように指示が出され、最終的に「全従業員が自宅勤務」という通知が書面で送られた。もちろん、勤務中は寝間着姿のままでは困る。

 ニューヨークの不動産会社、スクエアフットで見られた一連の流れは、いまアメリカ全土の職場で繰り返し行われている。コロナウイルスの拡散を少しでも抑えるため、企業がリモートワークへと大きくシフトしているのだ。

 現段階で、アメリカの連邦政府や地方自治体は自宅勤務に関する明確な指針を出しておらず、ニューヨークからカリフォルニアにいたるコミュニティが封鎖措置をとる状況で、雇用主は破壊的な緊急措置をどこまでとるのか、自身で判断しなければならない。

 一方、博物館やコンサートホールからディズニーランドまであらゆるサービスが閉鎖するなか、自宅勤務ができない数百万人もの労働者が不透明さに直面している。

 従業員の多くがオフィスで働く企業にとっても、すぐに状況を変えることは容易ではない。すべてのクライアント会議を電話やビデオ通話に切り替えることはできない。在宅勤務の従業員にはノートパソコンやセキュリティパスワード、そして人間工学に基づいた仕事用椅子さえなく、企業も従業員も生産性の低下を懸念している。

 前述のスクエアフットのマネージャーは通知文書にて、「これを休暇として扱わないでください」と注意し、きちんと着替えて机に向かい、「自分を仕事モードにする習慣」を取り入れるよう従業員に勧めている。

 リモートで仕事しやすい者と、そうでない従業員が混在する企業も多い。

 大手ハイテク企業の一社であるアマゾンもオフィススタッフの多くに在宅勤務を指示しているが、配送品を取り出して梱包し、発送する倉庫スタッフはいまも手指消毒剤を追加設置しながら働き続けている。

 J.P. モルガン・チェースは専門の職場環境が必要なため、トレーダーをニュージャージーとブルックリンにあるバックアップサイトに移動させた。ニューヨーク地域の従業員はシフト制で在宅勤務を実施するが、支店のスタッフは引き続き現場勤務のままだ。

 スクエアフットでも、従業員全員を在宅勤務にすることはできない。企業のオフィススペース探しを支援する同社は、希望するクライアントには引き続き不動産めぐりツアーを提供するよう仲介業者に指示している。

 同社の財務ディレクターで、この2週間食料品のまとめ買いなどをして過ごしたというリンゼイ・ガーフィールド氏は、「地下鉄に乗らずにすんで安堵している」と話す。ただ、クライアントが不動産ツアーを取りやめると会社の収益に関わるため、心配だという。実際、フライトが組めないという理由でニューヨークでの物件探しを延期にしたクライアントもいる。

「そのことは考えないようにしています」とガーフィールド氏は言う。彼女は毎朝しっかり着替えをし、手早く作業をこなすことで仕事モードを維持している。

 安全な労働条件を遵守させる米国労働安全衛生局(OSHA)によると、今回のようなウイルス拡大に対応する雇用者の法的基準はないという。OSHAと米国疾病管理予防センター(CDC)の両機関は、企業向けにコロナウイルス対策ガイドラインを発行した。ここでは、シフト制導入に向けた準備を奨励するとともに、テレワークを認めている。

 事業主は、地域コミュニティから情報を得ながら、一斉休校や大規模集会の禁止といった流れに取り残されないよう新型コロナウイルス対策を検討している。

 オレゴン州ポートランドにある広報関連企業、ライフフリップのエリック・ミッチェルCEOは、まずは出張を中止し、次にクライアント会議をZoomに切り替えた。その後、従業員30名のうち希望者にはリモートワークを認め、最終的には社員全員を在宅勤務とした。

 ミッチェル氏がオフィスを構えるシアトルにも新型コロナウイルスの影響は及んでおり、深刻な状況を無視することはできないと語る。同氏のクライアントの間でも懸念が広がっており、そのなかでもNBA選手は、シーズンが中断されたと聞いて世界がひっくり返るほどの衝撃を受けたという。

「見て見ぬふりをして、インフルエンザと同じようなもの、などというわけにはいきません。タイガー・スタジアム(アメリカの野球場)といったところに感染を広めたと非難されたくありませんから」と、ミッチェル氏は言う。

 いまや一歩間違えればソーシャルメディアや求人サイトで失態のリスクが拡大する時代を迎え、不確実性は増している。従業員が匿名で企業をレビューするウェブサイト『グラスドア』では、コロナウイルスに関する投稿が150件を超え、そのほとんどが「雇用主は消毒液の備蓄くらいしかしてくれなかった」と批判する声だ。

 グラスドアの最高人事責任者であるカリーナ・コルテズ氏は、できる限り透明性を維持すること以外、雇用主に「万能型のアプローチはない」と述べている。同社が世界中の従業員1,100名に在宅勤務を指示した後、キーボードやモニター、仕事用椅子の要請がすぐに送られてきたと彼女は言う。

 テキサス州サンアントニオの法律事務所で経営を担うジョゼフ・ヘルシャー弁護士は、電話やビデオ通話での対応に同意したクライアントには時間ごとの費用を割引している。しかし、とくに一部の年配のクライアントはZoomや電子文書の扱いに苦慮しているため、同社は対面ミーティング専用の会議室を設け、定期的に消毒しているという。

 従業員側もまた、在宅勤務について複雑な気持ちを抱いている。

 スクエアフットのガーフィールド氏は、在宅勤務の方が、絶え間なく仕事を中断せざるを得ないオフィスよりも仕事がはかどると話す。一方、ニューヨークのハイテク関連スタートアップ、プライバシーのコンテンツディレクターを務めるジョシュー・レデスマ氏は、「マンハッタンにある1LDKマンションのベッドとソファでは仕事に集中するのは難しい」と言う。

 彼はイラスト作成用にデスクトップを所有しているが、パスワードとタブはノートパソコンに保管している。

「仕事に関していえば、私は直接会って話すほうが絶対いいです。上司に直接、これどうですか、と聞ければ簡単ですから」とレデスマ氏は言う。

Translated by isshi via Conyac
By ALEXANDRA OLSON AP Business Writer

Text by AP