ベゾス氏にも物申す 声を上げ始めた「ビッグテック」の社員たち

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 リズ・オー・サリバン氏がニューヨークを拠点とするAI企業「クラリファイ」に就職したのは、2017年のこと。当時、自身が最も興味を抱いていた「テクノロジー」と「倫理」の両者が交錯する職場で働けることになり、サリバン氏は幸運に感じていた。しかしそれから2年が過ぎ、彼女は道徳的なジレンマに陥っていた。

 クラリファイは、国防総省のドローン監視プログラムである「プロジェクト・メイヴン」に参加する企業の一員として、航空写真や物体検出ツールを開発していた。オー・サリバン氏は友人や同僚と会話を重ねるなかで、この種のテクノロジーが将来的に、自律型兵器に使われる可能性があることに気づいた。

 1月、彼女は従業員グループの代表として、クラリファイのマシュー・ズィーラーCEOに書面を送り、同社の技術が武器の製造に利用されるかどうか明確にすることを求め、企業として一連の倫理基準を設けるよう要求した。ズィーラーCEOは後日開かれた会議の席で、クラリファイが自律型兵器に技術提供する可能性が高いと説明した。その翌日、オー・サリバン氏はクラリファイを退職した。

「私はとても驚き、自分の良心に従うしかありませんでした」と彼女は言う。AP通信はズィーラー氏とクラリファイにコメントを求めたが、回答はなかった。ズィーラーCEOは以前、同社がプロジェクト・メイヴンに協力することは、「AIの改良を継続し、人類の進歩を後押しする」という使命に合致していると語っている。

 過去2年間、アメリカではハイテク企業の従業員が「非道徳的なテクノロジーに対する反発」を強め、業界を内外から構築し直そうという機運が高まり、オー・サリバン氏もその1人であることを自認している。従業員らは、自分たちが作り出したテクノロジーの使い道に関する監督権の強化、さらには労働条件や雇用保障、関連労働者の賃金の改善・向上を求めている。

 実際に声を上げる人もいれば、請願書に署名して集会に出席する人もいるなど、労働者がこれまでにない行動を起こしている。

 アマゾンおよびマイクロソフトの従業員は、ソフトウェア会社パランティア向けのサービスを停止するよう企業に要求した。パランティアはアメリカ合衆国移民・関税執行局や米国陸軍などの連邦機関に技術を提供している。アマゾンの従業員はさらに、会社に再生可能エネルギーへの移行を要請し、株主総会でジェフ・ベゾスCEOと対決した。

 昨年、グーグルではセクハラ問題が発生し、会社側の対応に不満を持つ従業員がストライキを決行。その後も複数の社員が、中国の検閲に準拠する検索エンジン「ドラゴンフライ」に抗議する文書に署名した。

 セールスフォース、マイクロソフト、およびグーグルの従業員は、会社と税関、国境保護、ICE(移民税関捜査局)および軍隊との結びつきに対して抗議している。

 数万ドル単位の給料を受け取り、上限なしの休暇期間を与えられるという好待遇でありながら、多くの技術者が自分たちの仕事がもたらす影響に疑問を抱き、不安定な条件下にあるブルーカラーやサービス業者、契約社員らと結託して、より良い労働条件と賃金を求める運動に参加している。

 UCヘイスティングス・カレッジ・オブ・ザ・ローのビーナ・デュバル教授は、「こうしたことが、これだけの企業で大規模に起きていること。そして、ホワイトカラーの労働者が特権を揺るがしてまで自分たちの仕事の影響を知りたいと思うこと。いずれも、これまでになかったことです」と話す。デュバル教授は、反対運動の組織化に携わるハイテク企業の技術者数十名にインタビューを実施している。

 彼らを動かしているのは、国そして世界の「実存的危機」と、ハイテク企業が「長い間、多国籍企業が握ってきた以上の力を持っている」という認識だとデュバル氏は言う。

 この現象は、セールスフォースやグーグル、そしてパランティアが拠点を置くサンフランシスコ湾岸地域でとくに顕著だ。行動主義と進歩的な文化の本拠地であるこの地は、ハイテクブームによる住宅価格高騰の波にさらされている。

 グーグルの元契約アナリストで、民主社会主義者団体の湾岸地域支部でオーガナイザーを務めるイアン・ブッシャー氏(28)は、「ハイテク企業で働く人々に求められているのは、大きな力を生み出すこと。それらはすべて企業の株主や経営者のためです」と話す。「世界をより良い場所にするには、これらのツールを構築する仲間と一緒に判断し、民主主義を行使する必要があります」

 フェイスブックとパランティアにコメントを求めたが、回答はなかった。

 アマゾンの広報担当者は、従業員の行動主義についてはコメントを拒否したが、シアトルを拠点とする同社は持続可能性に取り組んでおり、倉庫で働く従業員に対しても十分な給料と人道的待遇を提供していると述べている。出資者会議においてベゾス氏は、従業員が求める再生可能エネルギーに関して直接的な発言はしなかったものの、すでに進行中の持続可能性への取り組みについて言及した。

 マイクロソフトの広報担当者は、シアトル地域に本社を置く同社は、従業員のフィードバックに感謝しており、意見の相違を尊重して「すべての声を聞くための多くの手段」を提供する、と述べている。

 グーグルの広報担当者は特定の事件についてはコメントしなかったが、報復は禁止されていると強調し、以前サンダー・ピチャイCEOが発表した、従業員の異議申し立てに関する声明を提示した。

 ピチャイ氏は昨年11月の会議で、「従業員に発言の場を多く提供することには、たくさんのメリットがあります。私達が下す判断の中には、彼らが同意できないものもあるでしょう」と語っている。

 近年、議会は積極的に業界の精査を進めており、先月も司法省が独占禁止の申し立ての渦中にある大手ハイテク企業の調査を開始したばかりだ。アメリカの世論調査機関、ピュー・リサーチセンターの最近の調査によると、テクノロジーが国に及ぼす影響について、アメリカ国民は否定的な見方を強めていることがわかる。

 カリフォルニア大学バークレー校のハース・スクール・オブ・ビジネスのケリー・マケルヘニー教授は、「テクノロジー部門の従業員として、今、自分に与えられた責任はいったい何だろう、という大きな罪悪感という疑問を感じているのです」と語る。

 グーグルのエンジニアとして働くアムル・ゲーバー氏(32)は7月、サンフランシスコのフェイスブック本社前で行われた、新規契約を求める食堂職員を支援するデモに参加した。彼は、「ホワイトカラーは優遇されているが、彼らもみな労働者であることに変わりはない」と述べる。

「我々は運命共同体です」とゲーバー氏は言う。「自分たちのために働く人すら大事にできない企業が、社会に良い影響を与えられるでしょうか。とてもそうは思えません」

 企業側も、こうした声に耳を傾け始めている。

 グーグルおよびフェイスブックは、契約労働者の賃金引上げを約束し、さらに何らかの手当を支給すると誓った。グーグルは従業員によるストライキの後、セクハラ事件の強制仲裁を終了した。従業員の抗議を受け、プロジェクト・メイヴンの作業に関する国防総省との契約更新も見送っている。

 従業員がマイクロソフトに対し、ICEとの契約を破棄するよう求めた際、サティア・ナデラCEOは「わが社は国境で家族を離散させるようなことには手を貸していない。電子メール、カレンダー、ドキュメントシステムをサポートしているだけだ」と明らかにした。

 セールスフォースの広報担当者は、従業員との対話により、テクノロジーの倫理的および人道的な利用に関する審議会が開設されたとし、「倫理的および人道的利用の最高責任者を雇い、ガイドラインを構築、さらには技術の倫理的利用および開発に関する状況を評価する」と述べている。

 テクノロジーがベイエリアの住宅危機にもたらす影響が懸念されるなか、セールスフォースのマーク・ベニオフCEOは昨年、ホームレス向けの支援住宅の費用600万ドルを寄付している。さらに今年に入ってからは、ホームレスの調査費用として、カリフォルニア大学サンフランシスコ校に3,000万ドルを寄付した。グーグルのピチャイCEOもまた、住宅2万戸の建設費用を、10年間にわたって10億ドル支払うと約束した。

 マケルヘニー教授はこうした迅速な対応について、ビジネスにとっても、そして自分たちの要求を訴えたいと願う顧客や従業員との信頼構築にも、良いことだと話す。「対応を取らない人々は、すでにドックから出港した巨大な遠洋船をみすみす見逃してしまっている」

 とはいえ、企業の努力が不十分だと言う技術者もいる。なかには、発言をしたために報復措置を受けたケースもあるという。

「技術者には多くの力があるが、ハイテク企業の重役たちにはもっと大きな力がある」とオー・サリバン氏は言う。サリバン氏は道徳的見地からクラリファイを退職し、今は人工知能の利用に透明性を追求する、若いハイテク企業に勤めている。

「変化に影響をもたらすには、法律と規制を利用することです」

By SAMANTHA MALDONADO Associated Press
Translated by isshi via Conyac

Text by AP