イケア効果 イングヴァル・カンプラード氏の会社が私たちの購買形態をどう変えたのか

Tanasan Sungkaew / Shutterstock.com

著:Cathrine Jansson-Boydアングリア・ラスキン大学 Reader in Consumer Psychology) 

 17歳のときにイケアを創業したイングヴァル・カンプラード氏が91歳で亡くなった。同氏は、文房具やストッキングの販売から始め、やがて世界最大の家具メーカーを築くまでになった。彼がこの発展を成し遂げた方法は、小売店の運営方法に革命をもたらしたのだ。

 私たちがイケアのおかげで享受できる現代生活の2つの側面がある。フラットパックという方法で梱包された家具、そして、最初買うつもりだった品々よりもたくさんの商品をつい購入してしまう店内のレイアウトだ。いずれも、他の多くの企業が導入し、うまく利用している小売りの原則だ。

                                                                                                                 

 イケアはその特徴的なフラットパック包装の家具を1950年代に初めて導入した。そのコンセプトには好き嫌いが分かれるにせよ、天才的に素晴らしい発想であり、同社のブランド価値の高さを消費者に印象付ける効果的な方法となった。コスト効率と商品輸送の実用性に対し明らかな効果を発揮する、という一方で、フラットパック包装の家具は、消費者の潜在意識に重要な影響を及ぼした。

 イケアが既に組み立て済みの完成家具の販売から手を引いた時、それが消費者にどのような大きな影響をもたらすかについて、ほとんど認識されていなかったようだ。それでも研究者たちは、なぜ消費者が自分の家具をひたすらもっとたくさん制作したい、と考えるのかを突き止めることができた。製品に手を触れる、という単純な行為(および、触ることを基本とする製品との関わりを高めるために、家具の一部を組み立てるより効果的なやり方)によって、消費者の製品全体に対する知覚価値を高めることができる。このことを、消費者が何かを組み立てるのにたくさん苦労すればするほど、ますますそれが好きになる、という事実と合わせて考えてみて欲しい。間違いなく勝利の方程式が頭にひらめくことだろう。

 完成されたモノとなるように何かを組み立てる、という実際の行為は(そしてその行為中に、汗や涙を流したり、時に悪態をついたりすることもあったにせよ)、完成品の形態でそのモノを購入するよりも、そのモノに対してはるかに深い愛着が湧くようになる現象を確認した実験がある。この現象は、「イケア効果」として広く知られている。

 触れる、という行為そのものが、神経学的に見て感情と密接に結びついている、という事実によって、このイケア効果はますます高まる。これは、何かに触れることで脳内の感情を司る部分が活性化され、触れた物に対して密接なつながりを感じるようになる、ということを意味する。モノに触れることで、そのモノを所有するという感情が芽生え、モノに対して抱く知覚価値がより大きくなる。こうして、フラットパックを楽しそうに組み立てる消費者は、1つの家具を完成させるとその成果を誇りに思い、自分で組み立て終えた家具に対して特別な愛着を抱くようになる。

◆売り場をぐるぐる回り続けると…
 イケアの店舗の商品レイアウトは、どのように買い物客を誘導すると良いのかについて画期的な考え方を取り入れたことでも活路を拓いた。イケアの巨大な倉庫型店舗を訪れたことがあれば、最初はそこでわずか数点の家具だけを買うつもりだったのに、ふと我に返ると、商品を満載したショッピングカートを押しながらレジに向かおうとしていることに気付くことだろう。これは、商品の売り場を円形に設計し、さらに一方通行としている仕掛けのなせるわざだ。

 売り場がこの円形デザインになっていると、この先の売り場で何を売っているかを見渡すことができないため、順路通りに進み続けないと何か必要なものを買い忘れてしまうかも、という心配が消費者の心の中に生まれる。売り場全体で順路をショートカットできる場所は何か所もあるのだが、順路を外れてしまうと見に行かなかった売り場のことが気になってしまうため、あえてそういったショートカットをしようとする消費者はほとんどいない。

 特定の商品をもう一度後で見に行く、というのは、時に困難を伴うことを消費者は誰しも知っているため、気になる商品を見かけたら、まずは手に取ってみて、とりあえず大きなショッピングカートに入れてしまおう、という傾向が見られる。こうして、顧客が商品に触れると、次に、その商品に対する心理学的な所有感が生まれる。こうなると、その商品がもういちど商品陳列棚に戻される可能性は小さくなる。

 次のコーナーが見渡せないという事実によって、潜在的に消費者は次に現れる商品に興味津々となり、顧客は徐々に店に魅了されていく。この謎めいた環境に身を投じた買い物客たちは、イケアの商品売り場に強く惹かれ、すべての商品を見るために歩き続けよう、という気になってしまう。そして、商品売り場を先に進めば進むほど、何か商品を買ってしまいがちになる。特に、キャンドル、ナプキン、額縁といった小物は、もっと高額な商品に比べて相対的に安価に感じられるので、その傾向は強くなる。

 消費者の潜在意識に訴えかけるイケアの創造的な手腕は、間違いなく同社の成功を支える屋台骨であり、その手法を他の多くの企業が模倣するようになったことも納得がいく。イングヴァル・カンプラード氏はこの世を去ったが、イケアは、既成概念にとらわれることなく顧客とのコミュニケーションについて柔軟に考える、という信条を同氏から確かに伝承している。イケアからはしばらく目が離せそうにない。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by ka28310 via Conyac

The Conversation

Text by The Conversation

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