なぜ紙の本が復活? 「美しい本」と独立系書店の取り組みとは

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 オンライン・リテールの世界にアマゾンが登場したのは1995年。以来、書店に足を運ぶ人が減り始め、多くの書店は苦境に陥った。アメリカでは大手でさえも生き残れず、書店は消滅の一途をたどるのかと思われたが、近年ユニークなアプローチで客を引き付ける独立系書店が登場し善戦している。また電子書籍に圧倒されていたイギリス出版界でも、多くの読者を引き付ける「美しい本」が人気で、紙の本の復興が注目されている。

◆既存プレーヤーが続々と姿を消した。アマゾン登場の衝撃
 ボストン・グローブ紙は、「人々は本を読まず、テキストメッセージやソーシャルメディアを読むようになった。本が必要ならアマゾンで注文するようになり、1990年代中頃から、書店の閉店はありふれたこととなった」と述べる。小さな書店を破綻に追いこんだ大手チェーンまでがアマゾンの猛攻にさらされたと同紙が言うように、書店業界では合併や倒産がくり返され、ついに2011年にはボーダーズが破たんし、全米に展開するチェーンとして残ったのは、バーンズ・アンド・ノーブルだけとなった。

                                                                                                                 

 さらに追い打ちをかけたのは、電子書籍用端末の登場だ。小売店や出版社は、安価な電子書籍が紙の本の需要にとどめを刺すのではと、パニックになったとボストン・グローブ紙は解説する。経済危機やアマゾンによる市場の植民地化で弱体化していたこともあり、出版社は金をかけない薄っぺらなペーパーバックや、フォトショップを使用した装丁に走った。これは、彼らがデジタル化の脅威で自信を喪失したことの表れであったと、ガーディアン紙は指摘している。

◆インディーズ書店、ビジネス見直しで予想外の大健闘
 ところが、全米書店組合(ABA)によれば、アメリカでは2009年から2015年の間に、独立系書店が35%も増加し、予期せぬカムバックをしている。この現象に着目したのが、成熟した組織や業界が技術的変化にさらされた際、どのように自らを再構築するかを研究しているハーバード・ビジネス・スクールのライアン・ラファエリ助教授だ。同氏は過去に、1970年代のデジタル時計の登場後も生き残ったスイス製時計を研究対象としている。そして時計、書籍どちらの場合も、過去の核心的価値であるクラフトマンシップを強調することで業界全体を再構築する例だとし、このようなケースを「テクノロジーの再現(technology reemergence)」と呼んでいる(ボストン・ブローブ紙)。

 ラファエリ氏は、『独立系書店の再現にはコミュニティ(Community)、キュレーション(Curation)、呼び集め(Convening)という3つのCがカギとなった』と述べる(ハーバード・ビジネス・スクール『Working Knowledge』)。独立系書店のオーナーは、地元で買い物をすることで、消費者がコミュニティをサポートするというアイディアを広めた。ボストン・グローブ紙は、クラフトビールやファーマーズ・マーケットの増加を促したのと同様の「ローカリズム」だと指摘している。

 さらに独立系書店は、よりパーソナルで顧客の経験を大切にする、キュレーターとしての役割を果たすことにフォーカスし始めたとラファエリ氏は述べる。ベストセラーを奨めるよりも、有望な作家や予想外の作品などを顧客が発見できるようアシストすることで、店と顧客との個人的な関係作りを発展させたとしている。また、レクチャー、サイン会、ゲームナイト、子供のストーリータイム、若者の読書グループ、誕生会などを企画し、同じ興味を持った人々を呼び集める知の中心地として、店舗をプロモートしたことも成功につながったという。ローカルレベルで広がったインディーズ書店のムーブメントを全国的なものにするためABAも支援を始め、他のローカルビジネスとの橋渡し役となったり、メンバーの書店同士がベストプラクティスを共有できるシステム作りに努めたりしているとのことだ(Working Knowledge)。

◆ビジュアル、手触りで訴える紙の本がブームに
 ガーディアン紙によれば、2014年をピークに電子書籍用端末と電子書籍のセールスは減速しており、イギリスの出版協会の調べでは、2016年に電子書籍のセールスは17%減となったが、紙の書籍は8%の増加となった。出版業界が、芸術的な装丁や手触りのよい紙を用いて、所有したくなる「美しい本」に力を入れたことが貢献しているようだ。大手書店のウォーターストーンでは、これらの本を売るため、小さなテーブルでより絞った陳列をしている。書店を手に取りたくなる美しいものが発見できる場所にするためだという。同書店マネージング・ディレクターのジェームス・ドーント氏は、これまで出版社は販売物としての本の質を落とし、経費削減で利益を増やそうとしてきたが、消費者には書店に足を運ぶ理由が必要だということに、やっと気付いたと述べている。

「美しい本」は、独立系書店にも恩恵を与えており、サフォーク州の書店主は、ビジネスは好調だとガーディアン紙に話す。手に取って触れることのできる本が、味気ないキンドルと競合することはないと主張する店主は、人はすべてが同じに見えるキンドルで何を読んだかは思い出せないが、紙の本が持つ外見的特徴、色、触感は、読了後も心に長くとどまると述べている。

 ソーシャルメディアやオンラインセールスの普及でリアルな体験が減った今、実店舗での人と人との交流や、目で見て触れることによる新しい作品との出会いが、各地で見直されているようだ。

Text by 山川真智子

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