“お手本だった東芝が…日本のガバナンス改革は大丈夫か”不正会計問題、海外も衝撃

 東芝の利益水増し問題について、第三者委員会による調査報告書が公表され、その全容が明らかになった。新たに判明した水増しは、2008年4月から2014年12月までの間で、税引き前利益で1518億円に上った。東芝の自主調査分の44億円と合わせると、1562億円となる。東芝は、コーポレートガバナンスに関しては先進的と見なされていたため、この不祥事が与えた衝撃は大きかったようだ。

◆東芝はこれまでコーポレートガバナンスの優等生だった
 東芝がこれまで、コーポレートガバナンスにおいて優れた企業だと見なされてきたことを、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙やインターナショナル・ニューヨーク・タイムズ(INYT)紙は大きく扱った。FT紙は、東芝が、企業の行動を監視する日本の取り組みのお手本であり続けていたと語る。ガバナンスに関する本で見本例として登場さえしていたと伝える。INYT紙では、NPO法人「日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク」の理事長を務める牛島信弁護士が、「東芝には140年の歴史があり、コーポレートガバナンスに関してはオールAの優等生のようでした」と語っている。

 東証は6月1日より、上場企業に対し、「コーポレートガバナンス・コード」に従うことを求めている(従わない場合は、その理由を説明しなければならない)。コードでは、独立社外取締役を2人以上選任するべきだとしている。その社外取締役を、東芝はいち早く、2001年には3人置いていたことをFT紙は伝える。INYT紙は、現在は4人の社外取締役がおり、コードが推奨するところの倍だとし、東芝は表面上はコードの規定を満たしていた、もしくはそれよりも優れていた、と語る。

◆日本のコーポレートガバナンス向上の取り組みに黄信号?
 しかし、その東芝にして今回の不祥事を招いてしまったことから、日本で現在進められているコーポレートガバナンスの改良の取り組みに問題点が突きつけられた格好で、多くのメディアがそこに注目している。

 FT紙は、東芝の不祥事が、安倍首相が支持する全面的なガバナンス改革に着手した日本を動揺させている、と語る。ガーディアン紙では、立教大学経済学部経済政策学科のアンドリュー・デウィット教授が、「この不祥事は、安倍政権とアベノミクスにとって確実に大打撃。コーポレートガバナンスの改革は、日本の成長戦略にとって重要な要素だからです」と語っている。

 ブルームバーグのオピニオンサイト「ブルームバーグ・ビュー」の論説では、この不祥事は、日本にとって今後の道のりがどれほど遠いかを際立たせた、何しろ、尊敬すべき東芝は、新コードの主要な規定を満たしていたのだから、としている。

◆形だけでは駄目。実質が伴わなければならない
 多くのメディアが、東芝のガバナンス体制と、その実際の効力とのギャップに着目した。FT紙は、東芝のガバナンス体制は、同社の監視について嘆かわしいほど無力なことが示された、と語る。

 例えば、東芝の監査委員会では、3名の社外取締役が監査委員を務めていたが、第三者委員会の報告書によると、その中に「財務・経理に関して十分な知見を有している者はいなかった」という。第三者委員会は「監査委員会による内部統制が機能していなかった」と結論付けた、とFT紙は伝える。

 ブルームバーグ・ビューは、日本に対する提言を並べた論説の中で、単に社外取締役を増やすだけでは不十分だと指摘している。社外取締役という地位はしばしば、潜在的問題を見抜くには専門的知識がなさすぎ、厳しく質問する動機がほとんどないような元官僚に与えられる、と語っている。日本は、社外取締役に経営の確実な監視に役立つ能力があるかどうかを確かめる必要がある、としている。

 コードの策定にも携わったコーポレートガバナンス専門家、ガバナンス・フォー・オーナーズ・ジャパン代表取締役の小口俊朗氏は、INYT紙で、「東芝はコードの形式面を満たしていたが、質を満たしていなかった」と指摘した。4人いる社外取締役のうち2人は元外交官(大使)で、営利企業の監督の経験がほとんど、あるいはまったくなかったと指摘し、「量が問題ではないのです」と語っている。

 FT紙では、シティグループ証券の江沢厚太アナリストが、今後、コードを順守しているように見える日本企業はますます増えるだろうとした上で、「よさそうに見える体制を持つだけでは十分ではないと、企業側が理解していることを確かめる必要があります」と語っている。

◆日本の企業文化にも刷新の必要性が
 第三者委員会の報告書では、東芝の企業風土も、直接的な原因の一つだったと指摘している。多くの海外メディアは、ガバナンスの問題と並行して、企業文化の問題にも着目した。

 FT紙は、東芝のかつては称賛された企業文化が、問題の原因となった、と語る。FT紙の囲み記事は、東芝の不祥事の根底に、企業文化が根本的な問題としてある、との示唆があると語る。さらに、この問題は他の日本企業にも存在するかもしれない、という強い示唆があるとしている。

 報告書では、東芝には「上司の意向に逆らうことができない企業風土が存在した」との指摘があるが、これについてFT紙(囲み記事)は、東京電力福島第一原発事故の国会事故調の報告書で使用された文言に、ぞっとするほど似ている、と語る。記事が問題にしているのは、黒川清委員長による英文の序文で、そこでは日本の「反射的な従順」と「権威に異を唱えることに前向きでないこと」が原因の根本にあったとされている。

 ブルームバーグ・ビューは、違法なものであっても、上からの指示に逆らえないと部下に感じさせるような、序列的な企業文化を日本はどうにかする必要がある、と助言している。年功序列の賃金制度がその一因になっているとして、これを壊す必要がある、と語っている。逆らわずにやり過ごすことが常態になってしまうからだ。

 また、退任した旧世代の経営陣が、いつまでも経営に関与し続けることを、FT紙(囲み記事)とブルームバーグ・ビューは問題視した。FT紙は、このことが東芝の沈滞の奥にある原因だとアナリストらが見なしていると語る。彼らがいつまでも存在していることで、社内に憎悪に満ちた党派対立が生まれ、事業部間で、より破壊的に争う羽目になったと語る。ブルームバーグ・ビューは、彼らの存在が、部下にプレッシャーを感じさせる一因になったかもしれない、と語っている。

Text by 田所秀徳