米知事、リニア試乗で“虜になった” ボルチモア-ワシントン線実現に一歩前進か

 4日、山梨県のリニア実験線を訪れた、米メリーランド州のホーガン知事は、時速505キロで走行する車両に試乗した。知事は地元ボルチモアとワシントンを結ぶリニア導入に積極的。日本政府、JR東海も協力を約束しており、初輸出に期待が膨らんでいる。

◆知事はリニアを絶賛
 メリーランド州は首都ワシントンに隣接。人口のほとんどはワシントン周辺やその郊外、および州最大の都市、ボルチモアとその周辺に集中しており、ワシントンとのつながりが強い。地元紙ボルチモア・サンによれば、ボルチモア-ワシントン線(約64キロ)は、高速鉄道計画のあるワシントン-ニューヨーク間の第一段階として提案されており、リニアが導入されれば、ボルチモア-ワシントンはわずか15分で、ワシントン-ニューヨーク間は1時間で結ばれる予定だ。

 試乗を終えた知事は、「素晴らしい経験だった。想像以上だった」と絶賛。州のビジネス環境向上に力を入れていることから、州内のボルチモア・ワシントン国際空港への乗り入れで、さらに利便性が高まると述べた(ワシントン・ポスト紙、以下WP)。試乗には、安倍首相に近いとされるJR東海の葛西敬之名誉会長が同行しており、厚遇されたようだ(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)。

◆資金面は大丈夫?
 ボルチモア・サンによれば、実はメリーランド州では、ライトレールと呼ばれる、ワシントンと郊外を結ぶ電車の整備計画が進められてきた。しかし、ホーガン知事は、そのコストの高さを批判。計画存続か否かは、知事の判断に委ねられることとなった。計画推進派は、知事は地元のライトレール建設を求める声よりも、日本のセールストークに耳を傾けると非難。少なくとも100億ドル(約1.2兆円)必要と言われている、ボルチモア-ワシントン間のリニア建設に疑問を呈している。

 これに対し、州の関係者は、ライトレールとリニアは別物だと主張(ボルチモア・サン)。地元でリニアを推進する、ボルチモア・ワシントン高速鉄道LLCの幹部も、建設コストは日本政府、JR東海、アメリカ政府で分担することになっており、州民の税金を使う必要はないと説明する。

 WPは、日本政府は、ボルチモア-ワシントン線でのリニア導入に50億ドル(約6000億円)の資金協力を申し出ており、JR東海も技術の無償提供に応じているという日本メディアの報道を伝えている。しかし、その一方で、2010年にメリーランド州がリニア計画のため連邦鉄道局に求めた17億ドル(2000億円)の資金は「時期尚早」ということで却下されたことに言及。資金供給が、思い通りにはいかないことを示唆した。

 さらに、高速鉄道を巡っては、アメリカ高速鉄道協会のアンディ・クンツ氏のように、リニアでなくても、実用性やコストを考えれば、従来型の「線路を走る」高速鉄道で十分という意見もある(ボルチモア・サン)。また共和党議員の中にも、自動車や航空機を好む国民性を考えれば、莫大な費用が無駄になるのではという建設への懸念もあり(WSJ)、すんなりと採用が決まるわけでもなさそうだ。

◆速くて安全が最大の売り
 さて、日本の最大のセールスポイントは、まさにその安全性だとホーガン知事は指摘。5月にフィラデルフィアで起きた、アムトラックの脱線事故に触れ、リニアであれば、あのような事故は起きないと評価した。また、リニアの速さを体感した知事は、日本の関係者に、「505キロで虜になったよ」とジョークを飛ばし、ご機嫌だったようだ(WP)。

 リニアの安全性とスピードに魅了された知事。米政府と国民を説得し、建設にその手腕を見せていただきたい。

Text by NewSphere 編集部