イデオロギーや理念でなく、実利で動く中東政府

Khalil Hamra / AP Photo

◆イデオロギーや理念で動かず、実利で動く中東政府
 そこにあるのは、イデオロギーや理念で動かず、実利で動く中東政府の姿だ。まず、イランがイスラエルと敵対することは事実だが、今回の件が発端となり、イスラエルと直接戦争することは避けたい。両国間の衝突となれば、イランは欧米からさらなる経済制裁を発動され、今日でも厳しい経済状態のなか、若者を中心とする国民の反政権的な行動に拍車がかかる恐れがある。

 また、サウジアラビアとの国交正常化を果たしたばかりだが、戦争となれば中東全体に影響が及ぶことから、アラブ諸国との関係が再び冷え込むことになる。こういった実利を考慮すれば、イラン政府としてもそれ以上のことはできない。

 また、サウジアラビアも同様で、脱石油の経済多角化を目指すなか、テクノロジーや技術の分野で先端を走るイスラエルとの経済関係強化は極めて重要で、それを崩してまでパレスチナ支持に回ることは得策ではないという現実がある。今回の衝突により、実利で動く中東政府の姿が筆者には印象的だ。

Text by 本田英寿