ウクライナ侵攻は第2、第3の侵攻を誘発するのか 多極化時代に突入した世界

台湾周辺の海域で中国空母(左奥)を監視する台湾の駆逐艦(9月)|Taiwan Ministry of National Defense via AP

 世界はすでに、アメリカが絶大な力を発揮してきた時代(一極化時代)を経て、中国やロシア、インドなどが台頭した時代(多極化時代)に突入している。1990年代や2000年代の世界では、世界の基軸通貨としてドルが圧倒的な影響力を持ち、マクドナルドやスターバックス、アップル、ハリウッドなどアメリカ発の経済や文化が世界中に広がり、世界の総軍事力の半分以上をアメリカが独占するなど、まさに超大国アメリカの時代だった。その後21世紀に入り、中国が急速に経済成長を遂げ、今日ではアメリカ主導の世界秩序の打破を目指すような存在となった。また、インドやブラジルなど多くの新興国も経済力をつけ、アメリカの力は相対的に衰退し続けている。力の分散とでも言える状況で、この状況は今後さらに顕著になると予測される。

◆アメリカの相対的衰退がウクライナ侵攻を誘発か
 上述のような観点から、ロシアによるウクライナ侵攻の背景の一つにアメリカの不介入主義があると言われる。2001年に米同時多発テロが起き、アメリカは圧倒的な軍事力をもってアフガニスタンでの戦争を開始し、2003年からはイラク戦争も開始した。しかし、長引く戦争からアメリカの疲弊も顕著になり、国内では外国の戦争に介入しないよう求める声が広がり、オバマ大統領(当時)はアメリカの世界の警察官からの引退を発表した。

 そして、米中対立などと呼ばれるように中国の影響力が世界的に高まり、アメリカの力の相対的な低下が顕著に見られるようになった。それを十分に認識して、ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻を決断した可能性も十分にある。実際、侵攻前からバイデン大統領は米軍がウクライナに介入することはないと明言したが、その背景にはロシアと直接衝突することへの懸念があったとされる。今日のアメリカは「中国問題に専念したい」というのが本音で、ウクライナでロシアと軍事的に衝突する時間や資金、余力はない。

◆ウクライナ侵攻が今後の世界に与える影響
 今日最も懸念されているが、ウクライナ侵攻が第2、第3の侵攻を誘発しないかということだ。当然だが、世界の紛争はロシアとウクライナだけではなく、各地にはそれぞれ多くの問題がある。アメリカが絶大な力を誇示していた時代は、アメリカのことを良く思わない国々もアメリカと戦争すれば勝てないことから、極力戦争になることを避けた。しかし、アメリカの力が相対的に低下し、介入しない姿勢を鮮明にする今日、これまである国に不満を募らせてきた国が軍事的手段に出る可能性は十分にあり、軍事的手段のハードルは下がっているとも言える。要は、ウクライナ侵攻がその参考になり、新たな侵攻を助長することが懸念される。

Text by 本田英寿