『ホテル・ルワンダ』英雄の釈放に見る、カガメ大統領の巧みな政治手腕

ルセサバギナ氏(2013年11月15日)|US Embassy Sweden / flickr

◆カガメ大統領の実用主義的アプローチ
 西側の議論の文脈においては、映画『ホテル・ルワンダ』に描かれた人道的な英雄が、不当な容疑で逮捕・投獄され、家族や人権活動家の働きかけによってルセサバギナが釈放されたという勝利の物語かもしれない。一方で、ルワンダ側の視点から見ると、今回の釈放の判断には、カガメ大統領の巧みな外交戦略が見え隠れするとの指摘もある。

 恩赦を求める公式文書において、ルセサバギナは、結果的にFNLの暴力をもたらしたMRCDへの関与を悔いているという表現によって、その関与を認めているが、暴力への関与は否定している。そして、恩赦が受け入れられた場合は、余生をアメリカで静かに過ごし、個人的もしくは政治的な野望は持たず、ルワンダの政治に関する問いも過去に葬るという意思を表明した。これは、ある意味、罪を認めるという行為であり、ルワンダ政府の逮捕を正当化するものとも捉えられる。

 逆に言えば、カガメ政権からしてみれば、逮捕と投獄は西側が論ずるような「不当な勾留」ではなく、国家の安全保障に対する正当な行為であり、脅威が脅威でなくなれば、当初の判断を覆すということも矛盾したものではない。カガメ政権は、ルセサバギナの一件を解決することで、アメリカとの関係を正常化したいという思惑があったようだ。さらに、虐殺という歴史を経たルワンダにおいて、罪を赦すという原則が根付いていることも、カガメ大統領の実用主義的なアプローチを促すものであったようだ。

 ルセサバギナは釈放されたものの、無罪となったわけではない。ルワンダの司法大臣によると、彼には、2018年に起こったテロの犠牲者に対する補償金の4億ルワンダ・フラン(約4800万円)を支払う責任があるとしている。

Text by MAKI NAKATA