国際政治から見た岸田首相襲撃事件 G7広島サミットを前に懸念

事件のあった和歌山市の雑賀崎漁港(4月15日)|Mari Yamaguchi / AP Photo

 4月15日、昨年7月の安倍元首相銃撃事件を思い出させるような事件が発生した。応援演説で和歌山を訪れた岸田首相が応援演説を始めようとしていたところ、突然その背後からパイプ爆弾が岸田首相に向けて投げ込まれた。首相は現場からすぐに避難して無事だったものの、一連の混乱によって警察官1人が軽傷を負った。警察は兵庫県に住む24歳の容疑者を威力業務妨害の疑いでその場で逮捕したが、男は弁護士が来てからすべてを話すと口を開いていない。現在、メディアでは元警察官たちが警備や危機管理の観点から解説しているが、これは国際政治の視点からも大きな問題である。

◆大々的に報じた各国メディア
 日本の指導者を狙った事件ということで、各国メディアも大々的に速報した。ニューヨーク・タイムズは、演説直前に岸田首相を狙った爆発事件があったが本人は無事で、発生した場所は和歌山で昨年7月の事件現場から遠くないと報じ、韓国の聯合ニュースは悲劇の再来だと強調し、ロイター通信やイギリス公共放送BBCなどの海外メディアが次々にこれを報道した。昨年7月の事件もあったことも影響しただろうが、平和で治安の良い日本のイメージが強いことから、両事件を受け強い動揺が見られる。

◆国際政治からの強い懸念
 各国メディアの報道にも見られるように、今回の事件が世界に与えた衝撃は大きい。そして、安倍事件の後であることから、日本警察の警備・警護体制にも心配の目が向けられても不思議ではない。そして、それを占う意味でも、日本警察は5月のG7広島サミットで大きな問題に直面することになった。G7広島サミットには欧米諸国だけでなくインドや韓国、オーストラリアなどの指導者も訪れ、中国やロシアによる現状変更が顕著になるなか、今回は自由主義陣営の結束を強く示すうえで極めて重要なサミットになる。岸田首相はウクライナのゼレンスキー大統領もオンラインで招待しており、ここでの混乱は絶対に避ける必要がある。

 ここで海外要人に何かしらの被害が出る事件が起きれば、岸田首相が目指す中国やロシアへの強いけん制は難しくなるだろう。そうなれば、各国の日本への不信感や疑念が拡大することは避けられず、日米同盟でも大きな摩擦が生じることになる。中国やロシアはそういった事件を好意的に捉えるような態度は示さないだろうが、欧米の結束が乱れた「良い」タイミングと認識し、たとえば、中国は海洋覇権や台湾情勢をめぐる動向でよりいっそう強硬な姿勢を示してくる可能性がある。北朝鮮も同様のことを考えるかもしれない。外交の世界でまず重要なのは信頼関係であり、そこで摩擦が大きくなれば、国際政治にも影響が出てくることになる。

 すでに岸田首相は国内の警察に対して警備の強化を呼びかけたが、G7広島サミットは警備と国際政治を関連づける問題になっている。

Text by 本田英寿