台湾有事の本質はどこにあるのか 習近平氏がリスクを冒して動くとき

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◆政治>経済と判断する権威主義国家
 習国家主席は中国の大国化を目指しているが、そのためには安定的な経済発展を維持し、国民の生活水準を底上げするだけでなく、諸外国への経済援助を継続する必要があることを百も承知だろう。そうなれば、我々は国民の意見に逆らってまでリスクを負うことはないと判断しがちだが、そこに大きな落とし穴がある。

 21世紀以降の国際政治を振り返っても、権威主義国家の指導者が政治的目標を達成するため、あえて経済リスクを負って出ることはこれまでも頻繁に見られた。エジプトやアルジェリア、ベラルーシなどの権威主義国家では、国家指導者たちが選挙に勝つためにあらゆる不正を隠し、それによって欧米から経済制裁を発動されても構わないといったケースがあった。

◆中国は権威主義国家
 これは、中国も例外ではない。習国家主席は「台湾統一を必ず成し遂げる、そのためには武力行使を躊躇しない」という姿勢を繰り返し示している。特に、政権3期目になって台湾は特別な問題に変容しつつあり、それは11月に習国家主席がバイデン大統領に対して「台湾は核心的利益のなかの核心だ」と告げたことからも明らかだろう。

 我々は中国が権威主義国家であることを忘れてはならない。今後、習国家主席が台湾統一という政治的目標を実現するため、経済を多少とも犠牲にすることは十分に考えられる。特に、台湾本島を武力で支配できる軍事的環境が整い、欧米からの経済制裁にも屈しない経済力やサプライチェーンなどが構築されたとき、我々は台湾有事を本気で考えなければならないだろう。

 台湾有事がいつ発生するかはわからない。しかし、米中間のパワーバランスの変化、中国軍の動向、中台関係の状況などをみても現在安心できる材料がほとんどないのが現実だ。我々は無意識のうちの平和観や世界観に基づかない、客観的事実のみによってこの問題を考えるべきだろう。そうなれば、台湾有事をめぐる問題の本質はまさに、「中国の習国家主席が経済より政治的目標を優先する場合があるかどうか」であろう。

Text by 本田英寿