国外脱出、抗議デモ、徴兵事務所への攻撃……動員令で混乱するロシア

警察に拘束されるデモ参加者(サンクトペテルブルク、24日)|AP Photo

◆国外脱出以外の動員逃れ
 だが脱出したくてもできないロシア人も多くいる。すでに出頭命令を受けた人は出国できないし、そもそもパスポートを持っていない人も多い。ジョージアでインタビューに答えたロシア人は「(ロシア人の)70%がパスポートを持っていない」と答えている(BFMTV)。また、同じくジョージアに入国したロシア人は、国境通過のために約180ユーロの賄賂を渡したと明かしている(フランス2、9/25)。空路ほどではないにしても陸路での国境越えにも資金が必要ということだ。

 いくつかのメディアは、予備役動員発表以来、ロシアの検索サイトで「ロシアの脱出法」に並んで、「腕の折り方」がトレンド急上昇したことを報じている。実際、ポストソビエト社会を専門とするパリ・ナンテール大学の准教授アンナ・コラン・レベデフ氏は21日、パリの街中でロシア人の若い女性が「ママ、なんとか方法を見つけてよ。彼の脚か腕を折るとか。そうすれば3ヶ月は延ばせるでしょう。どこかに小さいアパートを借りて、そこに彼をかくまうとか。(後略)」と携帯に叫んでいるのを耳にしたとツイートしている。どれほどの人が実行するかは別として、怪我をしてでも徴兵を免れたいと思うロシア人は一定数いると思われる。

◆ロシア政府内にも混乱?
 また複数の専門家やメディアは一様に、すでに開始された召喚による動員数が、当初言われた30万人よりも多く見えることに触れている。上述のグリモー氏も、公式には公表されていないが、動員数は「100万人、あるいはそれ以上の規模ではないか」と考えている(フランス・アンフォ、9/24)。

 軍募集センターにも混乱が見られる。グリモー氏が指摘するように、女性が入隊するケースも出ており、動員対象にならないはずの病人が招集されたという報告もある。また、プーチン大統領が24日に学生は動員免除対象となるという法令に署名したにもかかわらず、学生が召集令状を受け取る例も複数確認されている(20minutes紙、9/25)。

 SNSにも動員のためバスに乗せられるロシア人たちの様子や、募集センターでの言い争いをとらえた動画が多く上がっており、動員がスムーズに進んでいるようには見えない。また26日にはシベリアの徴兵事務所で25歳の男が発砲し、担当官が重傷を負う騒動も起きている。

 またロシア政権内部の混乱を示唆するかのように、ロシア国防省は24日、兵站を監督する国防次官だったドミトリー・ブルガコフを解任した。後任に、マウリポリへの壮烈な攻撃で知られるミハイル・ミジンツェフ大佐が就く。(ヨーロッパ1、9/24)

 この混乱の行方をしっかり見据えたい。

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Text by 冠ゆき