いまこそ求められる日中対話 米中対立激化を見据える

秋葉剛男国家安全保障局長(左)と楊潔篪共産党政治局員(8月17日)|Zhao Zishuo / Xinhua via AP

 日本の秋葉国家安全保障局長は8月17日、中国天津市で中国外交担当トップの楊潔篪(よう・けつち)氏と計7時間にわたって会談した。両者は、緊張が高まる台湾情勢や中国による軍事演習などの懸案事項について協議した上で、重層的な意思疎通が重要との認識で一致し、日中間で建設的かつ安定的な関係を構築していく必要性も共有した。日本側は、中国が尖閣諸島周辺で続ける領海侵入についても取り上げ、力による一方的な現状変更は認められないとの従来の立場を改めて伝え、ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の核・ミサイル開発などについても意見交換したという。

◆なぜ、いまなのか
 これまでのメディア報道によると、今回の秋葉氏と楊氏の会談は中国側からの要請によって実現したという。しかし、台湾情勢をめぐって緊張が高まるなか、8月4日に予定されていた日中外相会談が直前で中国側の要請で中止されていた。これにはどういった中国側の政治的意図があったのか。

 まず、8月初めのペロシ米下院議長の訪台時、米中間の政治的緊張が一気に高まったが、その際、日本側も中国に懸念を表明したことから、中国としては日本に政治的揺さぶりをかける狙いで外相会談の中止に打って出た可能性が高い。しかし、今年の9月29日で日中国交正常化50周年を迎えるなか、中国としてもより良い日中関係を内外に示す必要性もあり、「圧力」と「歩み寄り」を巧みに組み合わせて日本に接してきている。そういった政治的背景が今回の会談につながったと言えるだろう。

 今日の中国にとってのライバルは米国であり、日本はそうではない。米中対立が深まることで日本国内でも中国脅威論が高まるが、中国の本当の狙いは日米関係にくさびを打ち込み、日本と米国を切り離すことにある。それが中国の狙いである。しかし、日本は米国との関係を断ち切れないので、どうしても日中間で摩擦が生じ、場合によってそれがエスカレートする恐れがある。我々が懸念すべきはそれである。

Text by 本田英寿