中央アジアで中国の影響力拡大? 経済悪化のロシアと地域の関係に変化か

カザフスタンのトカエフ大統領(左)とロシアのプーチン大統領(6月17日)|Gavriil Grigorov/TASS Host Photo Agency Pool via AP

◆制裁の影響を回避 ロシアと距離を置く動き
 米議会出資の報道機関ラジオ・フリー・ヨーロッパ(RFE)は、中央アジア諸国はロシアへの依存度を制限し、ロシアが受ける経済制裁の影響に対処しようとしていると述べる。依然として影響力の強いロシアを批判しないよう注意を払ってきたが、地域の経済見通しが悪化したのに加え国内事情もあり、ロシアと距離を置いて代わりのパートナーを見つけようとしているという。

 米首都ワシントンの国防総合大学のエリカ・マラット氏は、トルコ、中国が中央アジアで活動を活発化させており、両国ともこの地域での存在感を拡大するチャンスだと捉えていると述べる(RFE)。ブルームバーグは、ウクライナとの戦争によってロシアと中央アジアのつながりが恒久的に損なわれる可能性もあると指摘。すでにサプライチェーンは中国やトルコに調達をシフトし始め、ロシアとの金融面でのつながりも弱まりつつあるとしている。

 ロシアがウクライナで消耗戦に陥っているなか、中国は中央アジアの独立国家との30年にわたる関係を祝い、王毅外相が5ヶ国との外相会合に出席した。秋に予定されている習近平国家主席の訪問への布石と見られ、この訪問は外交的地政学的に重要なものになると見られている。

 ◆安全保障は手放さない ロシアが中国と協力か?
 外交と安全保障問題のプラットフォーム『ウォー・オン・ザ・ロックス』に寄稿した華東師範大学の研究者Janko Scepanovic氏は、中央アジアではこの10年以上ロシアと中国の間に「役割分担」が形成されてきたと述べる。中国は投資で「銀行家」の役割を果たし、ロシアは安全保障を提供して「保安官」の役目を請け負っていた。

 ところが制裁でロシアの経済力は低下。安全保障を提供する能力がなくなり、その役割を失うかもしれないという意見が出るのももっともだと同氏は述べる。中国が中央アジア地域の安全保障への関心を高めているなか、ロシアは現在ウクライナに縛られている。

 しかし同氏は、ロシアが中央アジアを見捨てたり、その役割を放棄したりすることはないとする。確かに中国はタジキスタンなどロシアの同盟国に基地を建設し、地域フォーラムを立ち上げるなどして安全保障上の存在感を高めているが、ロシアはこれが広い国土を防衛するための中国の手段だと理解しているという。また中国もロシアの「保安官」としての役割を尊重し連帯を示しているため、ロシアは中国の動きを脅威と見ていないと述べている。

 むしろ大国の存在感を維持したいロシアにとっては中国のおかげで費用をかけず脆弱な地域政府の保護が可能になり、好都合だと同氏は指摘。安全保障においては中央アジアでの中ロの協調的な関係は続くと見ている。

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Text by 山川 真智子