中国建設のカンボジアのダム、住民の生活を破壊 人権団体が報告

ダム建設時の様子(2015年7月27日)|Mekong Commons / flickr

◆関係者ノーコメント カンボジア議員が中国紙で反論
 ダムの建設と運営は電気事業会社の中国華能集団が担当し、中国政府が政府系銀行に資金の大半を提供させた。しかし企業、中国政府、カンボジア政府のいずれも、ダム建設の前にプロジェクトの利益と影響について、意義ある評価を行っていなかったようだとHRWは述べる。さらにダムの電力生産量は、実際には中国華能が主張していた量の半分ほどだと思われること、プロジェクトのメガワット時あたりの二酸化炭素排出量は、一部の天然ガス発電所のそれに匹敵するという調査結果もあることから、環境面でのメリットもあまりないと述べている。

 HRWは、中国華能集団、中国政府、カンボジア政府に調査結果を説明し回答を求めたが、返事はなかった。しかし、中国政府系のグローバル・タイムズ紙が、カンボジアの国会議員、スオス・ヤラー氏によるHRWそのものへの批判を掲載している。同氏は、HRWは人権を政治的に利用する団体だと主張。彼らの野望は人々の政府への不満や不信感を刺激し、正当な政府を崩壊させることだとし、今回のHRWの報告書もその流れのなかにあるものだと断じる。

 同氏は、報告書の作成にあたりインタビューされた人がたった60人で、ダムの影響を受けたとする5000人の1%にすぎないと反論。恩恵を受けた大多数の人々へのインタビューは行われていないとした。さらに、住民移転や補償はガイドラインに基づいているとし、再定住者の生活も改善されていると主張している。

◆一帯一路のダム続々 自国のダムも利己的
 フィナンシャル・タイムズ紙は、セサン下流2ダムへの批判は、習近平国家主席の外交政策「一帯一路」の柱となっている、中国によるダム建設計画への懸念を浮き彫りにしたと述べる。インド、ウガンダ、パキスタン、タジキスタン、ジョージアなどでは10件以上の中国の大規模水力発電プロジェクトが進行中、または完了している。

 実は中国国内のダムも他国に被害をもたらしている。中国は自国内のメコン川流域にたくさんの水力発電用のダムを建設しており、下流の国々への配慮なく水量を調節するため、これが下流域の干ばつを引き起こしていると米シンクタンク、スティムソン・センターの報告書が指摘している。

 豪ローウィ研究所のサイト『インタープリター』に寄稿した作家で東南アジア専門家のミルトン・オズボーン氏は、中国はメコン川を共有の資源というより自国主権の資源と見ていると解説。メコン川に関する中国の行動は、中国の幅広い外交政策の価値観を反映するものだと考えざるを得ないと述べている。

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Text by 山川 真智子