中国への不信感、豪で高まる 世論調査で明らかに

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◆経済的損失を懸念 関係改善に期待も
 もっともUTSの調査では、61%の回答者が中国との関係をより強化すべきとしている。UTSのエレナ・コリンソン上級研究員は、オーストラリア人は明らかに対中関係の悪化と中国の自己主張の強さに大きな懸念を抱いているが、まだ関係を完全に諦めようとはしていないと指摘。この点について、オーストラリア人は関係改善のために一方に責任を押し付けることを控えており、国民の80%が現在の冷え込みを改善することは両国政府の責任だと考えていると説明している(ボイス・オブ・アメリカ)。

 実は昨年オーストラリアは、新型コロナウイルスの起源についての世界的な調査を要求。これを中国はオーストラリアによるパンデミック対応への批判と解釈したため、両国関係に計り知れないダメージを与えてしまった。中国は、外交上の摩擦が高まったことから、一部の豪農産物や石炭にさまざまな関税をかけた。

 豪政府がコロナの起源解明を求めたことに対して、Resolve Strategicの調査では回答者の66%が、UTSの調査では72%が支持すると回答しているが、経済への懸念は大きいようだ。ロイターによれば、中国との取引が多い西オーストラリア州は、最大の貿易国を敵に回すことをやめるよう連邦政府に求めた。マーク・マクゴワン州首相は、無謀な行為は繁栄と前進の資金源かつ原動力となる対中貿易を壊すとし、紛争や報復の話をやめるべきとしている。

◆対中での協力を要請 友好国内に温度差も
 ケビン・ラッド豪元首相は、BBCのインタビューで、中国の経済的、地政学的な威圧感に対抗するためには、各国の団結が必要だとし、一国だけでは中国のターゲットとなり痛い目に合わされてしまうと主張した。いまのオーストラリアがその状態にあるとし、現政権のアプローチが逆効果になるのではと憂慮している。

 スコット・モリソン豪首相もそれに気づいてはいるようだ。パリで開かれた経済協力開発機構(OECD)の理事会で、インド太平洋地域の平和と安定を確保するために世界的な協力を呼びかけ、中国が法の支配を傷つけ、自由を支持する世界秩序を脅かしていると非難した。他国のリーダーたちに外交的支援を求めるのが狙いだと、ガーディアン紙は指摘している。

 モリソン首相の求めに対し、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は支持を表明。しかしイギリスのボリス・ジョンソン首相は、誰も中国との新たな冷戦に陥ることは望んでいないと述べ、関係は難しいものだが、できる限りポジティブにかかわっていくことが重要だと慎重な姿勢を示した(ガーディアン紙)。中国との関係悪化は経済への影響が大きいだけに、各国足並みを揃えた対中外交は難しい。自国の価値観と経済の板挟みになったオーストラリア国民のストレスは、当分続きそうだ。

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Text by 山川 真智子