契約キャンセルも? 難航する仏受注の豪潜水艦プロジェクト

コリンズ級潜水艦ファーンコム|U.S. Navy / flickr

◆計画遅延、国内製造のハードルも高く
 コストだけでなく、建造計画に遅れが出ていることも問題視されている。豪シンクタンク、ローウィー研究所のサイト『インタープリター』によれば、アタック級の進捗状況は、「中間設計評価の段階」にあり、予定より9ヶ月遅れている。パンデミックの影響もあり、タイムフレームがさらにずれる可能性もある。政府は老朽化しているコリンズ級潜水艦を順次アタック級に入れ替える計画だが、遅れが3年以上になれば、潜水艦が1隻もない状況に陥る可能性もあるという。

 豪オーストラリア・フィナンシャル・レビュー紙(AFR)によれば、ナーバル・グループは、作業の60%を行う予定である豪の請負業者の雇用のための計画も決定していないという。詳細は昨年に決まっているはずだったが、いまでは2022年までかかる可能性もあるという。フランスが受注したのは、おもに国内で生産するという豪側の希望が受け入れられたことが大きい。豪政府は遅れに不満を示しているが、そもそも地元に潜水艦建造のための人材や設備がないことが問題で、ナーバル・グループも苦労しているという。

◆日本製にすべきだった? 仏と破談の可能性も
 7月に豪政権が発表した2020年の防衛戦略アップデートは、オーストラリアの戦略環境は2016年の防衛白書で予想されていたよりも急速に悪化していると結論づけている。とくに中国との二国間関係がこれまでになく悪化していることが示されている(インタープリター)。

 インド太平洋地域では、中国をはじめ各国が潜水艦を運用している。そこで豪としてはもっとも強力な武器の一つであり、抑止力にもなる潜水艦で後れを取りたくないはずである。結果的にフランスが受注したが、米海軍の元インド太平洋地域諜報員だったジェームス・ファネル氏は、中国の存在を考慮すれば、地域のパートナーであり太平洋で展開する日本の潜水艦を買うのがベストだったのではないかと話している(ABC)。

 そもそも当初日本の受注は確実と言われていたが、日本製を強力に押していた当時のアボット首相の辞任でお流れとなった。もし同首相が続投していたら、新しい潜水艦の納品は2020年代に行われ、日米豪3国間協力のなかでの日豪関係も強化されていたのではないかとストラテジストは述べている。AFRによれば、豪政府がナーバル・グループとの契約をキャンセルすることを検討しているという話もあり、国際的なメガプロジェクトの今後の展開が注目される。

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Text by 山川 真智子