北朝鮮、なぜいまビラに過激反応しているのか?

Kim Do-hun / Yonhap via AP

 韓国の脱北者団体は5月31日、金正恩氏を批判する内容のビラを気球に乗せて飛ばした。ビラには、「金正恩は偽善者だ」「長男である金正男氏こそが本物の血統一族であり、そうでない金正恩はコンプレックスを持っている」などの内容が書かれていたという。その後、北朝鮮はそれに強く反発し、6月16日、南北友好の象徴だった開城市にある南北共同連絡事務所を爆破した。南北共同事務所は、2018年に3回にわたって開催された南北首脳会談の合意によって設置されたものであり、文在寅政権のこれまでの取り組みに泥を塗る形となった。

 このようなビラの散布は、何もいまに始まったものではなく、少なくとも2003年あたりから繰り返し脱北者団体が行ってきた。では、なぜ今回のビラ散布にここまで過激な反応を見せるのか。これには少なくとも三つの理由が考えられる。

◆新型コロナウイルスによる中朝国境の閉鎖
 一つ目は、新型コロナウイルスによる中朝国境の閉鎖だ。新型コロナウイルスの感染拡大が中国を襲うなか、北朝鮮は1月、中国との国境を封鎖した。それによって中国との貿易が9割も減少し、国内で食糧難がいっそう深刻化している。去年、北朝鮮の対中貿易依存度は過去最大の95.2%にまで上がったとされるが、つまり計算上、現在北朝鮮国内に物資がほとんど入っていないことになる。北朝鮮では国民の4割以上が安心して食糧に辿り着けない状況であり、これによっていっそう食糧難が進むことが懸念される。

Text by 和田大樹