米脱退表明、危機に直面するWHO 資金問題、ゲイツ氏の財団の影響力増への懸念も

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◆米脱退ならゲイツ氏の影響力拡大
 拠出金がアメリカの次に多いのは、米資産家のビル・ゲイツ氏の「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」だ。2018~2019年の2年間の予算を見ると、アメリカの提供額は8億9300万ドル(約964億円)で予算全体の15.9%だ。一方ゲイツ財団は5億3100万ドル(約573億円)で、同9.4%となっている。同財団の寄付は非政府組織からの資金の45%になる。

 仮にアメリカがWHOから脱退すれば、慈善団体が最大の資金提供者になる。そもそもWHOは政府間の組織として形成されたが、ジョージタウン大学のローレンス・ゴスティン氏は、たった一人の篤志家が世界のヘルス・アジェンダを設定できることになってしまうと話す(『Devex』)。

 WHOの活動が資金提供者の影響を受けやすいということはブルームバーグも指摘する。ポリオの根絶というゲイツ財団の主要課題にWHOの活動が提携するのはアンバランスではないか、という批判もあるという。ゴスティン氏は、ゲイツ財団の透明性と責任は十分ではないと述べ、WHOの活動の優先順位に影響を与える可能性があるとしている(Devex)。

 もっとも、米公共ラジオ網NPRは、大統領の一存でアメリカがWHOから脱退できるかは疑問だと述べる。前出のゴスティン氏は行き過ぎた権力の行使に当たるとし、国連機関からの脱退には議会の承認が必要になると見ている。もしトランプ大統領が押し通せば、議会が連邦裁判所に訴えるだろうが、司法の判断が出るまでの間に、支払いを止める可能性があるという。

◆批判より改革を 責任は加盟国すべてに
 WHOは過去にSARS対策では過剰反応を示し、エボラ対策では対応が遅れたと批判され、今回のコロナでは名誉挽回を狙ったようだとブルームバーグは解説する。感染が広がって1ヶ月で公衆衛生上の危機を宣言したWHOを、トランプ大統領も最初は褒めていたほどだ。ところがアメリカで感染が広がると、トランプ大統領はWHOと中国のせいだと批判に転じた。するとトランプ政権に批判的な人々と中国は、中国批判は国内事情によるもので、感染拡大はウイルスを軽視していたからだと反論した。これに対しアメリカは、中国の出す数字が信頼できず不透明感が拭えないと応酬し、対立は深まるばかりだ。

 ロチェスター大学名誉教授のセオドラ・ブラウン氏は、そもそもWHOの査察やデータ収集は、各国の協力を前提としており、強制力を持たないと述べる。多くを求められたうえに米中対立に巻き込まれたWHOはどちらも喜ばすことができず、結果的にトランプ氏の発言に繋がった。ブラウン氏はアメリカの資金が止まれば、衛生面での政策や援助をWHOに頼る最貧国が犠牲になると懸念している(ブルーバーグ)。

 厳しい立場に置かれるWHOだが、創設したのは国際社会だとブルームバーグは述べ、現状を解決するのはWHOだけの仕事ではないと断じる。しっかり機能する中立的な機関を作れるかどうかは私たち次第だというゴスティン氏の意見に賛同し、まずは世界が目を覚ますことが必要だとしている。

Text by 山川 真智子

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