因縁のトランプ氏とロンドン市長、「ファシスト」「負け犬」……激しさ増す応酬

Bart Lenoir, Evan El-Amin / Shutterstock.com

◆因縁の関係だったカーン市長とトランプ氏
 今回激化したトランプ氏とカーン市長の舌戦はいまに始まったことではなく、確執は二人がそれぞれ現在の地位に着く前から続いていた。2015年、トランプ氏が米大統領選候補者として、公約にムスリムの入国を禁止する旨を盛り込んだのを受け、当時ロンドン市長選候補者であったムスリムのカーン氏は、イギリスのテレビ番組「Victoria Derbyshire」で「彼がひどい負け方をするのを望む」とコメントした。

 2016年5月、カーン氏がロンドン市長選に大勝すると、トランプ氏は「カーン市長は自身の掲げるムスリムの入国禁止令の例外とする」とコメント。同月カーン市長は「(イギリスにもアメリカにも成功したムスリムがいることを知らない)トランプ氏はムスリムに関して無知である」と反論。それに関してイギリスのテレビ番組「Good Morning Britain」で質問されたトランプ氏は「カーン氏にIQテストをさせよう」と言い、批判の応酬を見せた。

 その後、2017年6月にロンドン、バラ・マーケットで発生したテロの直後カーン市長が市民に対し「(警備を増強したため)市内で見かける警官の姿が増えることに対して市民は脅威を感じる必要はない」というコメントを出すとトランプ氏は「ロンドン市長は死傷者を出したテロに対して脅威を感じる必要はないと言った!」とツイート。カーン市長の広報担当は「市長にはドナルド・トランプの事実誤認のツイートに応えるよりももっと大事なことがある」との声明を出した。

 翌2018年には、トランプ氏のイギリス訪問に際し計画された反トランプのデモで、活動家たちが国会議事堂の真横に、氏の幼児性を揶揄する、トランプ氏がオムツをしスマートフォンを握ったデザインの「トランプ・ベイビー」と名づけられた巨大バルーンをあげる許可をカーン市長が出したことが話題になっていた。

◆支持を得られる確信あっての強気か
 今回のトランプ氏のステートビジットは、通常ゲストをもてなすために行われるはずの、バッキンガム宮殿への金の馬車での出迎えは「警備上の理由で」、宮殿での宿泊は「改装中のため」中止とされた。

 6月3日付のワシントン・ポスト紙の記事はそれを皮肉めかして伝え、馬車の代わりに大統領専用ヘリコプターで宮殿に乗りつけたためトランプ氏は反トランプデモを目にせず済んだと加えた。さらに、昨年マーケティングリサーチ会社Ipsos MORIが行った調査では、トランプ氏に好意的な感情を持つイギリス人は19%にとどまる一方、好意的でない人は68%にも達したことにも言及。トランプ氏のステートビジットが諸手をあげて歓迎されたものでないことを印象づける論調であった。

 トランプ氏のステートビジットは、2018年にもメイ首相により提案されていたものの、トランプ氏側が「イギリス側の十分な支持を得られないため」として辞退し、通常の公式訪問に変更されたという経緯がある。その公式訪問時、前述のトランプ・ベイビーが宙を舞った反トランプデモのためにロンドンに集結した人数は、開催者によると10万人を超えたとされる。

 その当時の米CNBCのサイトの記事は、リサーチ団体YouGovの調査では、トランプ氏が素晴らしい、または良い大統領だと思うイギリス人は11%、反対に67%が才覚がない、またはひどい大統領だと思うと回答したといい、イギリス人のトランプ氏への嫌悪感の強さが浮き彫りになったさまを伝えた。

 今回のステートビジットに際しても反トランプの大規模デモが開催され、トランプ・ベイビーが再び民衆の前に姿を現した。デモには、女王主催の晩餐会への招待を断った最大野党労働党党首のコービン氏をはじめ、自由民主党や緑の党のメンバーらも集結した。

Karl Nesh / Shutterstock.com

 与党保守党が欧州離脱のプロセスを遅々として進められない姿を露呈し、政権奪取の好機である野党にとり、これは、反トランプを公言することが民衆へのアピールポイントとなるという目論見があっての行動とも取れる。労働党に属するカーン市長が激しい態度でトランプ氏との舌戦を繰り広げられるのも、ロンドン市民の支持が得られるという自信に裏づけされているものなのかも知れない。

Text by Tamami Persson