「核の棺」から放射性物質流出の危機 米の核実験の遺物 国連総長憂慮

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◆気候変動は想定外 汚染物質が海に流出?
 作業が行われた1970年代は気候変動や海面上昇などについて考慮されていなかったため、ドームは太平洋側の海岸に建設された。マーシャル諸島は海面から平均1.8メートル程度の高さしかなく、長い年月の間に高潮などで環礁の一部が冠水することもあった。さらに悪いことには、ドームの底は内張りがされておらず、下から海水が侵入しているという。エニウェトクで取材をした豪ABCのマーク・ウィラシー氏は、コスト削減のためにコンクリートの内張りが省かれたと指摘している。環礁はサンゴと砂でできており、浸透性が高いということだ(米ラジオ局国際公共放送(PRI))。

 2013年に米政府が出した報告書では、台風やその他の嵐の増加で、ドームが破壊される可能性も指摘されている。ドームに穴があけば、大量の放射性物質が周囲の海域に流出し、核実験時と同程度の環境被害が出ることが懸念される(PRI)。

◆責任はだれに? 国連事務総長、救済を求める
 PRIによれば、ドームの構造的健全性を調べてきたカリフォルニアのローレンス・リバモア国立研究所は、外側のひびなどに安全上の問題はなく、今後修理も行われると2018年の時点でコメントしていたという。

 しかしドームの補強には多額の費用が必要で、マーシャル諸島は米政府に責任を取ってもらいたいと考えているとウィラシー氏は話す。実は1986年に独立した際に、マーシャル諸島はアメリカから1億5000万ドル(約164億円)を受け取り、今後の補償はないということで合意した。アメリカ側にドームを修理する義務はないという見方もでき、政治的膠着状態だと同氏は解説する。

 グテレス事務総長は、具体的に何をすべきかまでは言及しなかったが、フランス領ポリネシアやマーシャル諸島で行われた核実験に関しては、依然やるべきことが残されていると述べている。住民の健康やコミュニティにも影響を与える問題で、補償や被害を最小限にするメカニズムなどを論じる必要があるという見方を示している(米CBS)。

Text by 山川 真智子