グローバル化する極右テロ、懸念されるリスクは? NZの悲劇から考える
◆グローバル化する極右テロ
そして、昨今、筆者を含め世界のテロリズム研究者たちが懸念していることの一つに、極右テロのグローバル化という現象がある。2014年以降、ISがパンデミックのように国際社会で大きな問題となったが、それに対する反射のように、欧米では右派的な流れが白人層の人気を集めるとともに、極右的なテロ事件が目立つようになった。
極右主義者やそのグループのなかには、ISが駆使したようにSNSを利用して、各国の同調者たちと連絡を取り合い、国際的なネットワークを構築する者もいる。白人至上主義者の国際的ネットワークが、アルカイダやISのように猛威を振るう可能性は今のところ低いが、極右テロのグローバル化とその連鎖を懸念する声が専門家からは聞こえる。
欧米各国は、これまでイスラム過激派の情報共有を徹底し、多くのテロ事件を未然に防止してきた。しかし、白人至上主義など極右テロに関する情報共有では、トランプ政権の消極姿勢など多くの課題が残っており、今後はこういったタイプのテロにおいても国際的な情報共有がいっそう求められるだろう。
◆報復を掲げるイスラム過激派
クライストチャーチの悲劇から数日が経つが、すでにイスラム過激派からは報復を呼び掛ける声明が多く出ている。
イスラム過激派の動向を監視する「サイトインテリジェンス(SITE)」によると、アルカイダ系組織では、マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)やソマリアのアルシャバブ(Al Shabaab)、サハラ地域を拠点とするイスラムとムスリムの支援団(JNIM)が今回の事件を非難し、欧米諸国へ報復を呼び掛ける声明を出している。また、ISの公式スポークスマンであるムハジル氏(Abu al-Hassan al-Muhajir)やIS支持者たちも同様の反応をしている。
筆者は長年テロ情勢を追っているが、1回の白人至上主義テロで、イスラム過激派がこれほど多くの報復的声明を出すのは非常に珍しい。
◆深まる対立とリスク
イスラム過激主義と白人至上主義との対立の応酬は、すでにテロという形で生じているが、今回の事件によって、さらにイデオロギー的な対立が深まることが懸念される。今回の悲劇後、ロンドンではイスラム教徒の男性がモスクの外で3人組の男に頭をハンマーで殴られるなどの事件も発生しているという。テロだけでなく、社会のなかでの差別や不寛容にも繋がる恐れがある。また、白人至上主義者だけでなく、民族主義者や反グローバリストなど、ほかの右派的な勢力をも勢いづかせる可能性もあり、今後の動向が懸念される。
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