米中貿易戦争が北朝鮮問題にも飛び火か ポンペオ氏訪朝中止をめぐる背景

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◆「対話をやめるのは早すぎる」
 膠着状態の要因は、アメリカ側が描く非核化のプロセスと、北朝鮮のそれに食い違いがあるからだと米識者の多くが指摘している。アメリカは、北朝鮮が先に非核化に向けた具体的なステップを踏むのを見届けてから、その後に見返りとして制裁解除などの譲歩を行うというシナリオを描いている。一方の北朝鮮や独自の交渉を進める韓国は、先に緊張緩和・関係改善ありきで、非核化はそれに続くものだという考えだ。つまり、最初の動き出しの部分で両者の思惑にズレがあり、先に進めない状況となっているのだ。

 ローフリッグ教授は、「北朝鮮が先に非核化することはない。この状況でそれをする国はないだろう」と、米側が求める「非核化先にありき」の実現は難しいと語る。では、アメリカが先に譲歩したら、北朝鮮はそれに応じて非核化を進めるだろうか? そして、どのような譲歩が効果的なのか? 同教授は「いずれの答えもはっきりとは分からない」としながら、次のような可能性を挙げる。

 まず、北朝鮮に核開発計画のリストを提出させる。情報公開は全ての大前提となるからだ。「公表は、平壌の非核化に対する誠意を測る指標ともなる」とローフリッグ教授は言う。アメリカは見返りに、朝鮮戦争の終結と和平を宣言し、米国の脅威が去ったことを北朝鮮側に示すというシナリオだ。今回のポンペオ氏の訪朝では、これが提案されるという予測もあった。同教授は、「北朝鮮の非核化の進捗が非常にゆっくり進むことは十分予測していたし、それが不可能となっても全く驚かない。私は、北朝鮮に最終的に核を放棄する意思があるかどうかについても、非常に懐疑的だ。しかし、それ(非核化)に挑戦する価値はあり、対話をやめるにはまだ早すぎる」と、トランプ大統領の拙速な決断を批判している。

◆「北朝鮮」が貿易戦争のカードに?
 さらに米メディア・識者の注目を集めているのは、訪朝中止を伝えるツイートと連続して投稿されたトランプ大統領の中国批判ツイートだ。「米国が貿易問題で中国に強硬な姿勢を示しているため、中国は(北朝鮮の)非核化のプロセスを支援しないだろう」とし、ポンペオ氏の訪朝は「貿易問題が解決した後が極めて可能性が高い」と書いた。これを真に受ければ、米中貿易戦争が片付くまでは、北朝鮮問題は棚上げするということになる。

 アメリカと中国は23日、加熱する貿易戦争の解決に向けて交渉を行ったが、進展の兆しが何もないままに終わった。同日、アメリカは中国製品に対する160億ドルの追加制裁を発動し、9月にはさらに2000億ドルの関税措置を取ることを示唆している。中国側も同様の規模の報復措置を取るとしており、「新たな冷戦の始まり」だとする声も上がっている。

 世界から孤立する北朝鮮の生命線は、後ろ盾となってきた中国との貿易だ。アメリカは、中国が対北経済制裁に協力することが非核化の鍵だと位置づけてきた。中国側はそれを逆手に、北朝鮮制裁への協力をやめるという対米貿易戦争のカードを切ってきたようだ。米政府は、その証拠に中国と北朝鮮の貿易が最近増加してきたと非難している。元国務省職員のYJフィッシャー氏は、CNNのコラムで、トランプ大統領はこれに怒り、訪朝中止を指示したと見ている。同氏は、中国との貿易戦争は、他にも多くの米国の外交政策に影響を与えるとし、今回の件は「トランプ氏の貿易戦争の外交的副作用の始まりに過ぎない」と警告している。

Text by 内村 浩介