マレーシア、中国との鉄道など「一帯一路」事業を中止 他の被援助国にも影響か

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◆ベテランの対応? 対中関係は考慮も主張は曲げず
「一帯一路」プロジェクトは、アフリカやアジアの途上国には人気だが、スリランカのように中国の資金でほとんど利用者のいない空港や高速道路を建設し、多額の負債に苦しむ国も現れている。中国にとって有利な紐付き案件が多いことを懸念する国も出てきており、すでにいくつかの国々が中国との再交渉に挑み始めたと、調査企業Rhodium Groupのアガサ・クラッツ氏は指摘している(ワシントン・ポスト紙、以下WP)。このような事情も、マハティール首相の決断に影響したとみられる。

 だたし、マハティール首相は経験豊かな政治家だけに、非常にしたたかに立ち回っている。まず、プロジェクト凍結の理由をマレーシアの財政問題とし、決して中国を責めてはいない。中国の企業家クラブでの発言でも、責任はナジブ氏にあるとし、債務問題は中国ではなく、マレーシア政府の問題だと述べている。一部のアナリストは、ナジブ氏に責任を負わせることで、プロジェクト凍結による賠償などについての交渉で、中国の譲歩を引き出そうとするマハティール首相の意図が見えるとしている。また、前任者が作った債務を削減し国を建てなおすというメッセージは、中国だけでなく、マレーシアの有権者にも向けられていると、オーストラリア国立大学の客員研究員、Amrita Malhi氏は指摘している(アジア・タイムズ)。

 WSJによれば、マハティール首相は政府関係者やビジネス界に向けては、マレーシア経済に恩恵があるなら中国からの投資は歓迎だと融和的な発言もしている。その一方で、李克強首相から自由貿易のため中国と立ち上がるかと問われると、「自由貿易は公正であるべき」で、ただの開かれた自由な貿易のもとでは貧しい国が裕福な国と競えないとし、新たな植民地主義はいらないと持論を述べる余裕を見せた。

◆広がるか? 途上国の対中リバランス
 一部のアナリストは、マハティール首相のアプローチは、対中関係をリバランスさせる動きであり、中国側の「一帯一路」に対する妥当な批判を受け入れる意志、また公平で相互利益となる条件を採用する用意があるかどうかを測る、リトマス試験紙でもあると述べている(アジア・タイムズ)。

 ハイデルベルク大学で中国の外国援助を研究するマリナ・リュディヤック氏は、習近平主席は「一帯一路」を中国が責任あるグローバル・プレーヤーとなる「新時代」における貢献と位置付けており、マレーシアの決定は中国の経済外交の失敗を意味するとしている(WP)。中国にとっては大きな痛手だが、中国式援助外交受け入れの再考を、各国に促す事例となったようだ。

Text by 山川 真智子