シリコンバレーで世界のスパイが暗躍 高級娼婦など使い機密盗む 米誌が告発

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◆高級ホテルのラウンジが情報戦の舞台に
 地元紙マーキュリー・ニュースは、ロシア娼婦の「ハニー・トラップ」の最もポピュラーな舞台として、シリコンバレーの一角にあるメンローパークの高級ホテル『ローズウッド・サンドヒル』のラウンジを名指しで取り上げている。

 そのバーラウンジでは、毎週木曜日に「クーガー・ナイト」と呼ばれるIT長者らが集まるパーティーがあり、ロシア娼婦も多く出入りしているという。ある元米情報部員は、「もし私がロシアの諜報部員で、それらのハイエンドな女性たちが(パーティーの席で)メジャー企業のCEOたちを(ホテルの)自分の部屋に導き入れていると知ったら、私は彼女らに情報も取らせるだろう」と、ロシア政府の関与を確信的に語っている。

 これが事実だとすれば、高級ホテルの信頼が揺らぐ大問題に発展するだろう。当然ローズウッドホテル側は火消しに必死だ。報道を受け、「ポリティコの記事は、我がホテルを事実無根に証拠もなく中傷するものだ。我々はゲストと地域のお客様のセキュリティ、プライバシー、品位を守るため、これまで通り最高水準のサービスを維持する」と、緊急声明を発表している(マーキュリー・ニュース)。

◆シリコンバレーの企業文化も要因
 一方、中国は、中国人・中国系の社員や留学生をシリコンバレーにスパイとして送り込む手法を取ることが多いという。「日和見主義のビジネスマン、熱狂的な愛国主義者」がその任につくことがある一方で、母国の家族を政府の人質に取られ、強制的にスパイ行為をさせられる者もいるという(ポリティコ・マガジン)。

 英デイリー・メール紙(電子版)は、その具体例として、中国系のビジネスマンが革新的な白色インクのレシピを盗み、中国国営企業に売ったとして告訴された件を挙げている。しかし、シリコンバレーで産業スパイが告発されるケースは稀だ。IT企業側はたいてい、スパイ行為の被害を裁判沙汰にすることを嫌う傾向にあるからだ。自社の情報も守れないようなIT企業だと株主や投資家に見られてしまえば、それによる風評被害の方がはるかに大きいと考える経営者が多いと、ポリティコ・マガジンの取材を受けた米政府関係者の一人は語っている。

 中には、過去に中国人従業員によるスパイ行為の疑いがあったため、米国人しか雇わなくなった企業もあるという。しかし、これはレアなケースのようだ。シリコンバレーでは、年齢・性別・国籍などに関係なく有能な人材を積極的に登用する「オープン・ビジネス」のスタイルが一般的だ。この企業文化もスパイが容易に暗躍できる一因になっていると、元米情報関係者たちは見ている。

 中国・ロシア以外にも、スパイ行為に関与している国として、韓国、フランス、イスラエルも挙げられている。IT企業を巡る情報戦は、今や世界規模に広がりつつあるのかもしれない。

Text by 内村 浩介