執拗なドイツ叩き……トランプ氏はなぜメルケル首相を目の敵にするのか?

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◆メルケル氏が苦手? ドイツ嫌いの理由
 政治誌ポリティコは、実はこれまでもトランプ氏はドイツに厳しい発言をしてきたとする。「アメリカにドイツ車が多すぎる」「移民の増えたドイツでは犯罪が急増」「在独米軍の規模が大きすぎ」「移民問題で国民はメルケル首相に敵対」などの発言を例に上げ、欧州の同盟国ではもっとも攻撃を受けていると指摘する。

 病的なまでにトランプ氏がドイツに執着する理由は複数あると同誌は見ている。一つ目の理由は、ドイツはアメリカにたかることで、豊かな国になったとトランプ氏が信じていることだ。特に、経済好調で豊かなドイツが、GDP比2%をNATOのために払わないということにイライラしており、物品貿易でアメリカの対独赤字が巨額になっていることにも不満を持っている。そのため、一連の辛辣なコメントはもっとしっかりやれという「愛のむち」、という見方もトランプ支持者の中にはあるという。

 バイデン前副大統領のアドバイザーだったジュリー・スミス氏は、メルケル首相がオバマ前大統領から気に入られていたことも、トランプ氏のドイツ嫌いの理由ではないかとポリティコに述べる。トランプ氏はオバマ氏がやって来たことに対してはすべて否定的であるため、オバマ氏と緊密に連携してきたメルケル氏が気に入らないのではないかとしている。

 さらに、強い女性リーダー、メルケル氏の性格も影響しているのではないかと米ヘリテージ財団のジェームス・カラファノ氏は指摘する。メルケル氏の失敗は、日本の安倍首相やフランスのマクロン大統領のように、トランプ氏にお世辞を使わなかったことだとカラファノ氏は主張する。さらに、メルケル氏は典型的なヨーロッパ的お説教タイプの政治家であるため、それがトランプ氏には合わないとも述べる。メルケル氏がトランプ氏を対等に扱っていないようにも感じられ、それがトランプ氏のネガティブな反応を引き出すのではないかとポリティコに話している。

◆ドイツはもう学習した? アメリカからは失望の声
 トランプ氏のドイツ批判に対して、ドイツのウルズラ・フォンデアライエン防衛相はもう「慣れてきた」とし、とげのある言葉にも「対処できる」と話している。同盟国としてのドイツの多大なる貢献を引き合いに出し、ビジネスマンでもあるトランプ氏には、バランスシートだけでなく、結果を見て欲しいと釘を刺した(ドイチェ・ヴェレ)。

 アメリカでは、民主党の有力政治家、ナンシー・ペロシ氏とチャック・シューマー氏が、「アメリカの最も変わらぬ同盟国の一つであるドイツへの、トランプ大統領のずうずうしい侮辱と誹謗中傷は恥である」という共同声明を出している(同上)。

 退役軍人でコメンテーターとして活躍するラルフ・ピーターズ元二等陸佐は、NATO会合で他の首脳がトランプ氏に語りかける姿は、精神科医が情緒障害のある子どもを扱っているかのようだったとCNNに感想を述べている。さらに、ヨーロッパの盟主として立ち上がり、アメリカと協力して問題に対処してきたメルケル首相を称賛し、トランプ氏ではなくメルケル氏がアメリカの指導者であればいいとまで述べた。

 ドイツ・マーシャル基金のSudha David-Wilp氏は、今回のトランプ氏のパフォーマンスで、ドイツはアメリカなしでやっていく方法を考えなければならないと気づいただろうと述べる。そして、トランプ後のアメリカとドイツの関係が、もとに戻ることの保証はないとも述べている(ポリティコ)。

Text by 山川 真智子