トライ&エラーに躊躇不要、英国発の低価格コンピューター「ラスベリーパイ」
◆コロナ禍の機器不足を救ったラズベリーパイ
一方、突然世界を襲った新型コロナウイルスによるパンデミックは、多くの医療機材不足を生んだ。そんななか、ラズベリーパイは専門家たちのアイデアを実現し、この医療機材不足を解決するのに一役買った。
インドにあるチェンナイ工科大学の発表によれば、使いやすく、低コストで、柔軟性が高く、オープンソースの人工呼吸器を、ラズベリーパイを用いて開発したという。体温、血圧、呼吸数などを測定できるこの人工呼吸器は、マイクロコントローラーを使って制御することができるのだが、中心的な役割を担ったのがラズベリーパイだという。
またラズベリーパイ財団の記事によれば、マサチューセッツ大学アムハーストの研究者たちが、安価な内臓マイク、温度センサー、Intel Movidius 2ニューラルコンピューティングエンジン、ラズベリーパイを用いて、辞書サイズの機器「FluSense(フルセンス)」を開発した。
FluSenseは人の密集した場所の音をモニターし、季節性インフルエンザなどのウイルス性呼吸器疾患の発生を予測することができるのだという。この装置の特徴は咳とほかの音の区別ができる点で、咳のデータとその場所の人の密集度に関する情報を組み合わせると、感染症の症状が出そうな人の数を予測する指標になるという。
◆日本の高専にぴったりの製品
では日本において、今ラズベリーパイはどのような存在価値を持っているのか。「高専(高等専門学校)に与えた影響が大きいと思う。高専の先生が『壊しても大丈夫なものを手にできるようになった』と喜んでいたのがその象徴だ」と太田さんは言う。
確かに、十万円を超えるようなコンピューターを研究や遊びの延長で解体するには抵抗があるものの、数千円で手に入れられるラズベリーパイなら気兼ねなくできる。学びにおける重要なプロセスである「トライ&エラー」を、このデバイスが可能にしてくれた。特に高専の1〜3年生に人気だという。
もちろん、ものづくりのコアな頭脳(ソフト)として機能するのはもちろんだが、ハードとしての汎用性の高さがラズベリーパイの魅力だ。サーバー用途で使うこともできるし、電子工作の一部として使うのはもちろん、教育ゲームが財団のサイトで豊富に共有されている。「1万円程度で(コンピューターとして)なんでもできる。それが何よりも魅力」と太田さんは言う。
「試行錯誤するためのツール」として使われてこそ、ラズベリーパイの本望なのではないか。ラズベリーパイの認知と普及が進むことで、より多くの日本人が気軽に自由なプログラムを書き、デバイスの使い道の深みと広がりを体感できるようになることを願う。
在外ジャーナリスト協会会員 寺町幸枝取材
※本記事は在外ジャーナリスト協会の協力により作成しています。