生息地の環境悪化が原因? 中国でゾウが謎の大移動

Yunnan Forest Fire Brigade via AP

◆生後半年の赤ちゃんゾウも
 被害額などを見ると、いったいどれほどの大群が移動しているのかと思いたくなるが、移動中のゾウは15頭に過ぎない。

 シーサンパンナの国境近くにあるゾウ保護区域から、この群れが移動を始めたのは、2020年3月のことだった。その後11月には、100キロ以上離れた普洱でその姿を確認されている。当初は16頭のゾウが群れを成していたが、その後、普洱で赤ちゃんゾウが一頭生まれ、17頭となる。そうして5ヶ月後の今年4月16日、ゾウの群れは普洱を離れ再び北上を始めた。そのうち2頭は途中で群れを抜け、赤ちゃんゾウを含む残りの15頭が2ヶ月で500kmを踏破したというわけだ。(GEO誌、6/4)

◆生息域の環境悪化が原因か?
 元来、ゾウの移動は珍しいものではないが、通常は食料を求めてのことで、生息地の周囲に限られる。今回の野生ゾウの移動は、雲南大学のチェン・ミンヨン教授によれば、「これまで中国で観測されたなかで最も長距離」なものであり、「北上するのは稀」とのことだ(GEO誌、6/4)。

 今回のゾウの移動については、理由も行き先も不明である。だが、専門家のなかには、生息地の環境悪化を指摘する声が少なくない。シーサンパンナの野生のゾウは1980年代と比べると、約300頭と倍増している。それにもかかわらず、生息地は減少し、いまでは500平方キロメートルしか残っていない。なぜなら、森の多くは、ゴムや茶のプランテーションのために伐採されてしまったからだ。(同上)

 どこを目指すのかわからぬゾウの大移動は、彼らの声なき訴えなのかもしれない。

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Text by 冠ゆき