CO2排出ゼロ、水から水に戻る「水素エネルギー」「人工光合成」は夢ではない

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 ここでは、有機ハイドライドを使う方法を紹介しよう。製造された水素ガスを、触媒を使って液体の化合物(トルエンからメチルシクロヘキサンに還元)に変換、その後、運搬し、必要なときにその液体から触媒を使って水素を取り出す化学反応(メチルシクロヘキサンからトルエンに酸化)が開発され、このプラントは千代田化工建設で稼働している。

 千代田化工建設と三菱商事に三井物産と日本郵船を加えた4社でつくる「次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)」が事業化にめどをつけている。将来的には、メチルシクロヘキサンを水素ステーションに運び、オンサイトで脱水素して燃料電池自動車に供給することも検討されている。このためには、脱水素装置の小型化に向けた技術開発が必要だ。

 水素社会の構築には水素インフラが不可欠だ。これだけ構築された化石燃料のインフラを止めて、予算的制約もある水素インフラをスタートできるのか、という問題もある。水素ステーションの建設費が高いのは事実だが、しかし、日本には水素ステーションが2020年12月現在、137ヶ所で開業している。東京には21ヶ所ある。

 アンモニアは窒素と水素から製造されているので、水素のキャリアとしてアンモニアを活用することも検討されている。合金に水素原子を吸蔵させることで水素を輸送・貯蔵する「水素吸蔵合金」についても開発が行われている。

◆褐炭から水素を製造 液化水素として運搬
 いま、褐炭に注目が集まっている。褐炭とは、水分や不純物などを多く含む、品質の低い石炭のことだ。輸送効率や発電効率が低く、さらに乾燥すると自然発火するおそれもあるため、採掘してもすぐ近くにある火力発電所でしか利用できないなど、利用先が限定されている。そのため国際的にも取引されておらず、したがって安価なエネルギー資源だ。この褐炭はオーストラリアに豊富にあり、これをガス化し、前述の水蒸気改質反応により水素を製造、液化して日本に輸送するプロジェクトが日豪の間で進行している。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「褐炭水素プロジェクト」だ。事業主体は川崎重工業、卸電力会社の電源開発、水素供給技術を持つ岩谷産業、シェルジャパンによる「技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」だ。世界初となる川崎重工業の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」も完成、今年、試験輸送が始まる。

Text by 和田眞