世界は黒人と団結できるか ―「レイシズム」の定義をめぐる闘争

米国ワシントンD.C.にある「国立アフリカンアメリカン歴史文化博物館」の順路は、15世紀に遡る奴隷制の歴史解説から始まる(筆者撮影)

 Black Lives Matter運動が再興し、いま改めて黒人の人種差別問題に焦点があたるなか、「Racism」がもつ言葉の意味そのものも見直されている。人種をめぐる歴史背景の認識や、言葉の定義にすら合意できていないところに、とくに米国社会が抱える人種差別問題の根深さがある。

◆「黒人」の発明により、アフリカ人は人間ではなくなった
 とくに米国におけるレイシズムの社会構造の根元は、奴隷制の歴史とその過程で作られた人種分類にある。2018年4月号でとくに黒人・白人にまつわる「人種」を特集した「ナショナル・ジオグラフィック」(132年の歴史がある同誌は、この特集発刊にあたり、自らの過去にみる人種差別的なジャーナリズムを自認)の記事などでも指摘されているとおり、政治社会的な文脈で私たちが日々使用している、黒人や白人といった「人種」分類には生物学・生理学・遺伝学からみた科学的根拠はない。

 1492年から1776年の間の大西洋奴隷貿易でアメリカ大陸にたどり着いた約650万人のうち550万人がアフリカ人で、残りがヨーロッパ人だったとされている。17世紀の後半、新大陸開発の過程において、使用人などとして雇用されたヨーロッパ人は「白人」となり、アフリカ人は「黒人」として奴隷として扱われるようになった。

「黒人」の発明によって、資本主義経済を支えるのに必要不可欠であった奴隷制が正当化された。17〜18世紀のヨーロッパにおける思想概念として発達していた「人権」を持つ人間を、ほかの人間の(所有の権利がある)財産として取引するという奴隷制のパラドクスは批判の対象でもあった。しかし、黒人を、権利を持った人間ではなく、暴力的で知能が低い劣った存在として扱うことで、人権のジレンマを黙殺し、罪悪感を感じることなく奴隷制を運用できたのだ。ここで、発明された「黒人」は定義上(by definition)、そしてその意図としても(by design)、人間ではなかった。この歴史背景を理解することで、黒人の「人間としての価値 = 人命 = Life」を訴える「Black Lives Matter」の意図や意義に対する理解が、より深まるはずだ。

Text by MAKI NAKATA