上野千鶴子氏インタビュー「日本の寛容さを世界に示せるように」 2020年にむけて
2019年末、伊藤詩織さんの民事訴訟勝訴と、世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数で日本がさらに順位を下げ153ヶ国中121位という、日本の女性の立場を象徴する対照的な二つのニュースがほぼ同時に世間を賑わした。日本でフェミニズムが再び活気を帯びてきたように見える昨今だが、世界的に見るとまだまだなのか。2020年、私たちにできることはあるのか。上野千鶴子東京大学名誉教授に話を伺った。
——昨年は、男女平等への貢献を讃えて、フィンランド政府より表彰されましたね。すばらしい快挙ですが、報道が少なかったように思いました。
あれでも多かったほうだと思います。日本では「ジェンダー」も「フィンランド」もメディアに登場する機会の少ない話題です。あのとき、いくつかのメディアが「フィンランドは男女平等先進国」というイメージをきちんと伝えられたので、後のサンナ・マリン新首相誕生が大きく報道される土台ができたのではないでしょうか。その意味でフィンランドの方から見ても(授賞は)外交的に良策だったのではないかと思いますが、私にスポットライトが当たった原因は、やはり東京大学入学式での祝辞スピーチでしょう。
——先月12月8日のニューヨーク・タイムズでも、先生のスピーチが引用されていました。
私が理事を務める認定NPO法人ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)のサイトには国際ページがあり、おもに英語で配信しています。東大スピーチは6つの言語に翻訳されました。日本のフェミニズムは海外でその認知度を上げています。
——フィンランド大使館での授賞式のときに、政府の方々とお言葉を交わされたかと思いますが、女性の社会進出に関して何か印象に残ったことは?
女性初の大統領であるタルヤ・ハロネン元大統領に、「女性指導者には何が必要か」とたずねたときに、「sense of humor(ユーモアのセンス)」という答えが返ってきました。政治には役に立たないけれど(笑)、自分のメンタルを維持するのに大切だ、と。そのとき、さすが、苦難を切り抜けて、ここまで上り詰めた人だと思いました。フィンランドだってスウェーデンだって、ほんの半世紀前までは保守的な男性社会だった。それが変わってきた。いや、「変えてきた」んです。
——バッシングなどをかわし精神衛生を維持するのにユーモアが必要だったのでしょうね。彼女たちはなぜ社会を変えることができたのでしょうか。
政策に強制力をもたせてきたことでしょう。どんなに耳障りのいい政策でも、実効性がなければ意味がありません。たとえば昨年、日本では参議院議員選挙がありましたが、それに先駆けて「候補者男女均等法」が国会で全会派満場一致で成立したにもかかわらず、女性議員数は選挙前後でまったく変化のない28名。こういうポジティブ・アクションは強制力や罰則規定がないと効果がありません。たとえば、達成しなかった場合政党交付金を支給しないとか、達成率に応じて支給するとか、そういう罰則を設けないことには「口先だけの法律」ということになってしまいます。それをきちんとやってきたのがフィンランドです。
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