EVは環境問題の救世主ではない 抱えるさまざまな問題点

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◆バッテリー製造に大量のエネルギー
 化石燃料を使わないことからクリーンとされるEVだが、1バレルの石油と同等のエネルギーを蓄えられるバッテリー1つを作るには、石油約100バレル分のエネルギーが必要だと、マンハッタン政策研究所のシニアフェロー、マーク・P・ミルズ氏は述べる(シティ・ジャーナル紙)。

 EVに使われるリチウムイオンバッテリーは石炭火力発電の多い中国、韓国、日本で製造されており、アムネスティは、メーカーは製品のライフサイクルを通じた二酸化炭素排出量を公開すべきだとしている(WEF)。ミルズ氏も、アジアで製造されたバッテリーを輸入することで、消費者は二酸化炭素の排出を輸出したことになってしまうと述べる。EVが普及しても、現状発電の7割は石炭と天然ガスによるものなので、二酸化炭素排出を相殺するには何年もかかると指摘している。

 さらに、使用済みのバッテリーの処理の問題も指摘されている。アムネスティは、2030年までに使用済みリチウムイオンバッテリーは1100万トンを超えるとし、再利用、リサイクルを実現する循環型システムがほとんど構築されていないとしている(WEF)。

◆需要増加で鉱物不足へ EV生産に足かせ?
 石油関連の経済誌ペトロリアム・エコノミストは、EV用のバッテリー生産の増加で鉱物不足となり、速やかなEVへの移行が困難になる可能性があると指摘する調査を紹介している。

 イギリス政府も出資したSecurity of Supply of Mineral Resourcesという調査プログラムでは、イギリスが2050年までにすべての車をEVにし、2035年までにすべて車のセールスがEVだけになると仮定した場合、どれだけの鉱物が必要になるのかを計算した。この条件を満たすには、コバルトは世界の年間生産量の2倍近く、ネオジミウムは100%、リチウムは4分の3、そして銅は少なくとも半分が必要になるという結果となった(データは2018年のものに基づき、新世代電池セルNMC811使用の場合とした)。イギリスだけでこの結果であれば、今後世界にとっても鉱物の確保は深刻な問題となりそうだ。

Text by 山川 真智子