作物特許に対抗 世界で広がる種子の「オープンソース化」

◆危ぶまれる食料供給の未来
 ウィスコンシン大学マディソン校の名誉教授で、OSSIの委員会メンバーであるジャック・クロッペンバーグ氏は、種子の管理と新しい作物を生み出す能力は、食料安全保障と環境保護の両方に関わることだと考えている。種子は生物多様性、農業従事者の権利、フードシステムの管理、農薬の使用といった重大な問題に影響力を持つ。農薬使用については、多くの個人育種家たちは、品種改良で作物自体に抵抗力をつけさせるなどして、農薬を極力使わない努力をしてきた。

 クロッペンバーグ氏は、オープンソース運動は遺伝子組み換え作物の問題とは関係がないと強調する。特許は、野菜か穀物か、遺伝子組み換えかどうか、有機栽培かどうかなどとは関係なく、すべての作物に影響するとしている。氏は2016年8月のケムチャイナ社(中国化工集団)とシンジェンタ社の合併、および翌9月のモンサント社とバイエル社の合併に触れ、グローバル農産業界で合併が相次いでいることに懸念を示しながら、「種子の管理は、持続可能な環境を目指す我々の取り組みすべての核となるものです」と述べている。「直売所に行って、環境にやさしい方法で栽培された良質な地元産の野菜を買いたいと思う人には是非、そこにあるほとんどの野菜は、存続が危ぶまれている品種改良から生み出されたものであることを知ってほしい。種子の主権を手にするまで食料主権はないも同然です」

 OSSIの支持者は、食料供給の未来は危ういと考えている。知的財産権によって栽培できる育種材料がますます限られるなか、遺伝子プールは縮小し続けているというのがその理由だ。OSSIのエグゼクティブ・ディレクター、クレア・ルービー氏はニンジンの遺伝的多様性と使用可能性をテーマにした自身の博士論文で、育種材料となるニンジンのおよそ3分の1は知的財産権で保護されており、育種家が使用できないか使用が難しくなっていることを明らかにした。他の作物についての数値はまだないが、ルービー氏ら専門家は、トウモロコシなど大規模取引される作物は、レタスやニンジンなどの作物と比べてさらに大きな影響を受けていると確信している。

◆作物特許をどう捉えるか
 育種家は、どんな形質を持つ植物にしたいかを決めて品種改良をする。たとえば、作物の味や色を良くする形質、特定の環境でも育つ形質、害虫や病気への抵抗力を備えている形質などだ。形質特許に反対する人々は、気候変動により今後が予測できない今だからこそ、遺伝的多様性の必要性はかつてないほど高まっているというのに、特許件数の増加により育種家が使用できる育種材料が減っていることは話にならないと言っている。

 モンサント社の広報担当カーリー・スカデュト氏からのEメールによれば、氏は遺伝的多様性が重要であることは認めている。遺伝的多様性は、同社の操業においても極めて重大な問題であるため、自社の4つの遺伝子バンクを通して、また米農務省や世界中の研究機関と協力して、多様性の保全にあたっていると述べている。しかし、知的財産権が他の品種改良の取り組みを圧迫しているという考えには、同意していない。スカデュト氏は「特許[と植物種の保護]はイノベーションを刺激する」と書いている。「つまり特許は、それが切れたときに誰でも同様の品種改良ができるようにガイドマップを作っているのです。しばしばハウツー本の中に見つけた別の方法で同じ結果を出すことができますね。ですから私たちのしている保護は、イノベーションの妨げというよりは、多くの育種材料やノウハウを公有財産にすることにより、むしろイノベーションを促進しているのです」と書いている。

 しかしモートンさんは、特許が切れるまで20年も待つことが、イノベーションを促進するわけがないと考えている。変わりゆく状況に適応する作物を品種改良で生み出すために、そのような長期間を待たねばならないとしたらまず勝算はないだろうと主張する。しかし彼が本当に言いたいことは、遺伝資源はこれまでずっと共有財産だったのだから、これからも公共の利益としてあるべきだということだ。「[自営の育種家は]特許に必要な一連の手続きにかける時間もお金もありませんし、そもそもお金儲けを目的にしていません。私たちは農業従事者のために農業を発展させたいのです。これはまた企業のモチベーションとは異なるものでしょう。農業の発展は、最良で最新の遺伝資源を自由に利用することを妨げられて促進するものではありません」

 さらにモートンさんは、植物の形質を特許で押さえるという考え方そのものに異議を唱えている。「植物の形質は人間が作り出したものではありません」と言う。「形質は植物が作り出したものであり、育種家は植物がそれをどう作り出したかはわかりません。自然のなせるわざなのです」

 アメリカのオレゴン州に住む育種家でOSSI役員のキャロル・デッペ氏は、品種改良にはもう一つ重要な要素があると考えている。「あなたが新しい品種を生み出したとき、同時にその品種に独自の価値を生み出したことになります」と話す。「たとえば、あなたが大量の除草剤を使って一つの品種だけを大量生産する方式が正しいと信じているとします、だとすれば同時に、あなたは新しく生み出したその品種に、どんな農業が相応しいかという概念を生み出したことになるわけです。私はその概念と真逆の価値を正しいと信じているのです」

 モンサント社ほど大規模ではないが、世界に市場を持つ中規模企業の少数は特許を保有している。一方で、小さな種苗会社のほとんどは特許を取らずに頑張っている。彼らは特許取得に反対か、費用に見合わないと判断したか、あるいはその両方だ。

畑でレタスの種を選ぶ個人育種家のフランク・モートンさん 撮影:カレン・モートンさん

 モートンさんは、知的財産の保護を受けなければ、品種改良の活発化にもつながると話す。「新しい品種を次々と生み出す意欲は、[特許取得をする企業より]私の方が上だと思います。競合他社が、数年のうちに私の生み出した品種を販売することはわかっていますから、自分のカタログに新しい育種材料を増やすためにも、私は常に新しい品種が必要なのです」と語る。「特許は競争にさらされない守られた20年間を与えますが、私からしてみれば、随分と生ぬるいものに思えます」

Text by Global Voices