自分はどんな消費者になりたいか

 一方、企業優先主義で規制を嫌う日本やアメリカでは、プラスチックを使用することが罪であるという感覚はほとんど共有されていない。何かを購入すれば、店側はほとんどの場合、問答無用で商品をプラスチックの袋に入れようとする。そして多くの人が、そのことに疑問を持たずに、プラスチックのバッグを受け取る。

 環境破壊に危機感を持っている消費者は、エコバッグや自分用の食器(ストロー、カップなど)を持ち歩いて、ゴミを増やすことに加担しない工夫をしている。生産・加工の過程で温室ガスの上昇に貢献する牛肉を食べるのをやめてヴィーガニズムを実践する人たちも増えてきた。ところが、そういう一部の消費者がやっていることは、猛スピードで進行する環境破壊の前では焼け石に水である感は否めない。

 ニューヨークを拠点に、ファッション・ブランドにサステイナビリティ対策を指導する非営利のコンサルティング企業〈スロー・ファクトリー〉を主宰するセリーヌ・シーマンと話しているときに、同じことが話題になった。

「一部のこういう努力は、素晴らしいことではある一方、今すぐこの世界に暮らす人全員がヴィーガンになったところで、進んでしまった環境破壊を止めることはできない。沈んでいく最中のタイタニック号から、食器をひとつずつ海に投げ落とすことで沈没を止めようとするようなものだから」

 セリーヌの言葉は、重く私の心に響いた。

 彼女は、「Sustainable Development Goals(SDGs:持続可能な開発目標)」を掲げる国連の依頼を受けて、「Study Hall」と題する勉強会を主宰している。様々な分野で、潤沢にある資源を使って、環境を破壊せずに作ることのできるサステナブルな素材や作り方を追求する企業およびアクティビストを招聘し、持続可能性の最前線を啓蒙しているが、「もはや個人の努力では間に合わない」という意識のもとに、現実的にインパクトを出せる政策面での変革を、大企業や政府に働きかけ、推進している。

 私自身も、自分がどれだけゴミを減らす努力をしたところで、そこに参加してくれる人が増えなければ大したインパクトにはならないと痛感していた。本やネットでどれだけ書いたところで、届く人の数はたかが知れているのだ。だから、大企業や自治体、政府の人たちがこの危機感を共有してくれないと何も変わらないのである。

 けれど絶望してはいけない。この危機感を共有する企業やスタートアップが登場し、技術的にゴミを資源に変えたり、自然を破壊せずに素材を作ったりする試みが行なわれるようになっているのだから。

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Text by 佐久間 裕美子