素材のことを考える 2

 こうして素材のことを悶々と考えていると、出口が見えなくなる。そんななか、ワクワクするのは新素材の世界である。これまで衣類やライフスタイル商品に使われてこなかった何かを、繊維などに転用するチャレンジをしている会社が、次から次へと登場している。

 たとえば北カリフォルニアには、〈ボルト・スレッズ〉というスタートアップ企業がある。カリフォルニア大学出身の生物学者3人組が、クモが吐き出す糸(スパイダー・シルク)を人工的に再現することを試みて商品化に成功した。〈ボルト・スレッズ〉はまた、マッシュルームを使って革に似た素材を作り出すことに成功したスタートアップを買収して、革に近い感触と耐久性を再現することに挑戦している。イタリアには、オレンジの皮を使って繊維にすることに成功した〈オレンジ・ファイバー〉という会社があって、最近ではフェラガモがこの素材を商品に使って話題になった。フィリピンには、パイナップルの葉をもとにシルクに近い繊維を開発した〈アクラン〉という会社がある。こうした新開発の繊維の共通項は、食物など、少なくとも現時点では潤沢にある材料を使ってバイオディグレーダブルの素材を作ることができる、という点だ。捨てられても、埋立地に存在し続ける、ということはない。

 もうひとつ注目しているのは、これまでだとただ捨てられるしかなかったプラスチックや化学繊維を融解して繊維にする試みだ。今、回収されたペットボトル、シングルユース(一度だけ使って捨てられる)のプラスチックを回収し、ポリエステル繊維などを溶解して繊維やその他の素材に再生する技術が登場している。たとえばニューヨークには、〈パーレイ・フォー・オーシャンズ〉という、2012年に設立された非営利の環境団体があって、アディダス、ステラマッカートニーといったブランドとのコラボレーションを通じて再生素材を使った商品を次々と発信している。デザイン性が高く、気が効いた楽しい商品を通じて、水路を汚染し海洋動物を脅かす海洋プラスチックの問題への関心が高まっていく。気がつけば、ファッションの世界で、環境や生態系を守ろうという意思を持った非営利団体やイニシアチブが増えていた。

 こうしたムーブメントに共通してあるのは、いま現在も刻一刻と進む環境破壊がさらに加速していくと、地球はいよいよまずいことになるという危機感を持ちながらも、ファッションや美しいものに対する人々の欲望を除去することはできない、という理解である。

 〈ボルト・スレッズ〉を取材したときに、ファウンダーのデビッド・ブレスラウワーが発した一言が印象に残っている。

「本来なら、(環境破壊に対してできる最大のことは)みんなが一斉に消費するのをやめることだ。でも消費や無駄はなくならない。だから捨てられたときに環境への負荷が小さい素材を作ることが、大きな変化につながるパズルのピースのひとつになる」

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Text by 佐久間 裕美子

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