トランプ氏、国境警備強化法案に「待った」か 共和党内紛の可能性も

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 2000年以降、アメリカの不法移民数は下降傾向をたどっていた。しかしバイデン大統領就任後の2021年以降はその数が急増している。トランプ政権時代は不法移民として入国してきた家族を引き離して劣悪な環境に収容したり、イスラム圏からの入国を禁止するなどの人種差別的政策を敷いていたことで、不法移民数はある程度歯止めがかかっていた。また2020年3月以降は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、全世界的な「鎖国」状態が続いていたことも、2021年までは不法移民数が抑制されていた原因だった。

 しかし一般的に民主党政権は移民政策に柔軟であると思われているほか、バイデン政権に移行後、新型コロナ感染が減少傾向に移り入国規制が緩められたこと、そしてロシアによるウクライナ侵略で世界情勢が不安定化したことなどが追い風となり、アメリカ・メキシコ国境を目指す不法移民数が急速に跳ね上がった。

◆不法移民数が2年前に比べ63%増
 米税関・国境警備局(CBP)の統計によると、昨年1年間の不法移民総数は320万人だった。そのうち独身の成人が最も多く、206万人を占めている。この数は2021年にはそれぞれ196万人と132万人で、総数は2年間でおよそ64%増加している。

 この不法移民増加の事実をバイデン政権バッシングのために利用しているのが、トランプ前大統領をはじめとする共和党だ。共和党が民主党攻撃に使う常套句は「民主党は国境を開放している」「不法移民を歓迎している」というもので、下院で多数を握る共和党が現在、不法移民の急増に対応できていないとして国土安全保障省のマヨルカス長官の弾劾(だんがい)手続きを進めている。

 この国境状況を踏まえ、バイデン政権はウクライナおよびイスラエル支援と国境制御政策をあわせて共和党との交渉に臨んだ。バイデン大統領としても、大統領選前に不法移民が殺到して収集がつかなくなるシナリオは避けたかったに違いない。ホワイトハウスの発表によると、バイデン大統領は民主・共和両党の上院議員と過去数ヶ月間、国境とウクライナ・イスラエル支援の法案パッケージの交渉を重ねてきており、国境警備隊員や入国審査官などを増加することにより、国境の取り締まりをこれまでより「厳格で公正」にすること、そして「国境が(大勢の不法移民などで)圧倒された場合は、大統領が国境を閉鎖する権限を持つこと」を軸とした法案の制定を急務としている。

Text by 川島 実佳