「メルケルがプーチンを強くした」ウクライナ侵攻で前独首相を批判する声
◆経済プロジェクトのはずが……ロシアを利するパイプライン
最も批判が集中しているのは、ドイツにロシアの天然ガスを運ぶパイプライン「ノルドストリーム」プロジェクトへのメルケル氏の揺るぎない支持だ。最初にプロジェクトに合意したのは当時のシュレーダー首相だが、後任のメルケル氏は続行を決め、「ノルドストリーム2」の建設も推し進めてきた。ガーディアン紙は、なぜメルケル氏がロシアとの経済関係拡大路線を継続したのか、それが純粋なこれまでの踏襲だったのか、それとも自身を政治的に有利にするために行ったのかはあまり明らかではないとしている。
キーゼヴェッター氏は、このプロジェクトは商業的ではなく常に政治的であり、ドイツは欧州や安全保障といった側面に関してまったく取り組まなかったと批判している。メルケル氏はノルドストリームが純粋な「経済プロジェクト」だと長らく主張し、貿易を通じてロシアを多国間体制、さらにはルールに基づく秩序に組み込むことができると考えていた。欧州外交問題評議会のヤナ・プグリエリン氏は、クリミア併合で警鐘が鳴らされたときでさえ、メルケル氏はノルドストリームとは分けて考え、政治問題化させなかったと述べている。
フランスHEC経営大学院のアルベルト・アレマンノ教授は、メルケル時代のドイツほどロシアの世界秩序に対する反抗的な姿勢を軽視した国はないと主張。メルケル氏の対ロシア融和政策の縮図が「ノルドストリーム2」だとし、対ロシア姿勢の悪いところをすべて体現しているとした。「プーチン氏と不要な相互依存関係を構築することで、メルケル政権のドイツはプーチン氏を強くし、欧州全体とNATOを弱体化させた」と厳しい見方だ。(CNBC)
◆ドイツ人も平和ボケだった……メルケル以外に責任も
一方で、メルケル氏を擁護する声もある。ジャーマン・マーシャル財団のヨーグ・フォーブリッヒ氏は、連立政権のパートナーであった社会民主党からの圧力、ロシアとの経済関係を求める経済界のロビー活動、そして原子力に代わるエネルギー源を探す必要性などがあったため、メルケル氏は問題に見合ったロシア政策を実行できなかったと述べている。(AFP)
ヴィアドリナ欧州大学のヤン・ベーレンツ氏も、メルケル氏だけを責めるわけではないと述べる。いま振り返るとドイツがプーチン氏の権力乱用や権力強化に対して無頓着だったのは無責任に思えるが、当時ドイツ国内には対立を望む声はほとんどなかった指摘。平和と繁栄に浸っていたドイツ人は、現状打破を支持することはないとメルケル氏は察していたのではないかとしている。(調査報道メディア、プロパブリカ)
ロシアに関する批判は多いが、CNBCはシリア難民を大量に受け入れたこと、トランプ政権時代に事実上のリーダーとして西側をまとめたことなどを上げ、メルケル氏のレガシーは損なわれてはいないとしている。
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