打倒プーチン、ロシアを揺るがすアレクセイ・ナワリヌイとは?

Moscow City Court via AP

◆ナワリヌイの軌跡
 ナワリヌイは1976年生まれで、現在44歳。1998年にロースクールを卒業した弁護士で、2010年にはイエール大学のYale World Fellowsにも選ばれている。彼は過去10年以上、ロシア政権の汚職問題の告発に取り組んできた。Voxによると、2008年ごろからブロガーとして知られるようになり、初期は国有企業の汚職問題を取り上げてきた。現在は、ロシア・プーチン政権の汚職問題を摘発することで政権と対峙しており、プーチン政権がいまもっとも警戒している人物とされている。

 2011年、ナワリヌイは約5万人を動員したモスクワでのプロテストを率いた。その後、モスクワの市長選に出馬。プーチンが指名したセルゲイ・ソビャーニンに敗れたものの、27%の得票率を記録した。ナワリヌイは独裁的なプーチン政権に対する存在である一方で、リベラル派というわけではない。民族主義(ナショナリスト)的なスタンスが、都会の若者らの支持を遠のけたと専門家は分析する(Vox)。

 しかし市長選で存在感を見せたナワリヌイは、支持率を維持したプーチン政権に挑み続けた。マスメディアは政権が影響力を持っているため、かわりにYouTubeチャンネルで発信を続け、メドベージェフ大統領の収賄などを暴いた。現在チャンネルのフォロワーは637万人である。2018年の大統領選挙では、プーチンが支持率の低下に直面するなか、大統領選への挑戦も試みた。出馬は叶わなかったが、選挙活動のようなスタイルで全国にネットワークを展開。汚職に焦点を当てることで、ナワリヌイはモスクワだけでなく全国的に反政権勢力のネットワークを強化し、国民の支持を集めることができたと専門家は分析する。

 ナワリヌイは致命的となりえた今回の事件以前にも、毒物による攻撃を受けてきた。2017年には何者かに緑色の防腐剤をかけられ負傷、右目の視力の8割を失った。2019年には無許可でプロテストを行ったとして逮捕、投獄され、その期間中、毒物と思われるものが原因で皮膚反応を起こした。

 米ニューヨーク・タイムズのマイケル・バルバロ(Michael Barbaro)がホストを務めるポッドキャスト「The Daily」に登場した、同紙モスクワ特派員のアントン・トロイアノヴスキ(Anton Troianovski)によると、プーチン政権はナワリヌイの取り扱いに関して、絶妙なバランスを維持してきたという。ロシアは北朝鮮や中国とは違う、自由と民主主義の国だということを、国民に信じさせる戦略と関連しているという。政権のリスクとなりうる活動を行うナワリヌイを警戒しつつも、ナワリヌイを投獄すれば国民の強い反発を買い、より大きなリスクになるという計算があったようだ。

 今回の毒殺未遂によって皮肉なことに、ナワリヌイの全国的、世界的な認知が広がった。彼のナショナリスト的な価値観、外国人差別的な価値観を加味すると、彼は必ずしもロシアを新たな道に導くリーダーとはなりえないと専門ジャーナリストらは分析するが、ナワリヌイが反政府勢力として国をまとめる影響力は否定できない。プーチン政権、そしてロシアの今後は、9月に行われるロシア下院選が一つの鍵だとされる(AP通信)。選挙の結果は、プーチンが再度出馬するとされる2024年の次期大統領選を方向づけるものとなる。ナワリヌイ、そして彼の陣営の今後の動向が注目される。

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Text by MAKI NAKATA