米大統領選で注目された、ステイシー・エイブラムスの選挙戦略

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◆ジョージア州、民主党勝利へ
 11月の大統領選挙でジョー・バイデンの勝利が確実となり、ジョージア州では民主党が勝利したことで、各メディアや国民はエイブラムスの貢献を讃えた。大統領選におけるジョージア州での民主党の勝利は1992年以来のことだ。今回の勝利を牽引したのが、新たに登録された80万人以上の有権者である。この数字には、前出のフェア・ファイトと、エイブラムスが共同創設したもう一つの団体「ニュー・ジョージア・プロジェクト(New Georgia Project)」との取り組みが大きく貢献した。

 2013年に立ち上がったニュー・ジョージア・プロジェクトは、黒人、ラテン系、アジア系など白人以外のすべての有権者の選挙登録を目指し、活動する団体だ。ジョージア州での、有権者登録の鍵となっているのが、同州の人口動態の変化である。同団体のホームページによると、ジョージア州の人口は過去10年の間に18%増加し、その増加の多くがニュー・アメリカン・マジョリティーと呼ばれる、有色系の人々(people of color)、18歳〜29歳の若者、そして未婚女性だとする。この層は、有権者の62%を占めるが、選挙登録者においては53%の割合に留まっている。このギャップに目をつけた選挙活動が、今回の新たな登録者の増加に寄与した。

 ギャップに着目し、新しい有権者にターゲットを絞ることは論理的な戦略のようにも思えるが、ジョージア州の選挙においては、画期的な戦略であった。投票できない人(選挙登録をしていない人)にターゲットを絞ることは、割に合わないため、普通の政治家はやらないことだとエイブラムスはいう(ニューヨーク・タイムズ紙)。つまり、すでに投票する気がある層に、政策をアピールするほうが効率的だからだ。しかし、エイブラムスは、ジョージア州の人口動態の変化は、(黒人女性である)自分の価値観に共感する人々の増加であると判断し、そこに機会を見出した。実際、エイブラムスは、ブライアン・ケンプの不当な選挙妨害がなければ、自分がより多く得票し、州知事に当選していたと主張する(同)。ジョージア州の人口動態の変化に着目した選挙戦略は、ほかの州における民主党選挙戦略の青写真としても注目されている。

 冒頭述べたように、1月5日、ジョージア州上院の決選投票が行われる。民主党が過半数を獲得できれば、バイデン大統領は公約を進めやすくなる。一方、共和党が勝利すれば、ねじれ議会となり、共和党トップのミッチ・マコネルらの強い反対を受け、政策実行のハードルが非常に高くなる。エイブラハムのフェア・ファイトは、11月時点で、この決選投票に向けてすでに600万ドルの資金を調達したと報じられている。決選投票は共和党が有利といわれているが、エイブラムスらが11月の勝利を再現できるかが注目される。

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Text by MAKI NAKATA