ワクチン獲得で見せたシンガポールの機動力 ファイザー製到着

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◆知識は力なり ワクチン確保戦略大成功
 地元紙ストレーツ・タイムズによると、シンガポールは今年前半からすでにワクチン確保に向けて動き出していた。

 同国のコロナ治療薬、ワクチンに関するアドバイスを行う専門家会議を監督するベンジャミン・シート教授は、大国が大量確保に動くことはわかっていたため、できるだけ早い決断が迫られたと述べる。そこですべての入手できる情報へのアクセスを求め、4月に専門家会議を立ち上げた。ここで35種類以上のワクチンのデータを吟味し、もっとも有望な候補を特定してそれらの安全性と効果を評価した。

 その結果選んだのは、RNAワクチンだった。製造がほかより容易なため、治験により早く入ることができ、世界的に大量供給が見込めると判断したからだ。RNAワクチンはウイルスの遺伝子暗号の断片を注射し、本物のウイルスに感染することなく、患者の体に防御反応を起こさせる仕組みとなっている。ファイザーと米モデルナのワクチンがそれにあたる。

 4月末になると、ワクチン候補に「戦略的な賭け」をするためのグループが作られた。グループは、製薬業界と強いつながりを持つ経済開発庁を通じてワクチン製造企業に接触。秘密保持契約を各社と結び、ワクチン開発過程における機密データへのアクセスを可能にした。購入を前提とした契約ではなかったため、データに基づきワクチン候補のポートフォリオを精選し、有望候補が不成功に終わったときのために備えることができた。

 6月の時点でモデルナと最初の事前購入契約を結び、頭金も支払った。その後ファイザー、中国のシノバックなど少なくとも2社以上と契約を結び、現在もワクチン獲得に向けほかの企業の選定作業が続いているという。発注数の少なさが交渉力に影響するのではと心配されたが、シンガポールはアジアの生物医学のハブとして製薬業界から認識されており、むしろワクチンの同国からの立ち上げに意欲的だったということだ。

 政府はワクチンの調査に、Covaxファシリティ(ワクチンを共同購入し、公平に分配するための国際的枠組み)関連費用も含め10億シンガポールドル(約780億円)以上を投入している。ワクチンの1回当りのコストは守秘義務のため明かせないとしている。ちなみにベルギーの大臣がうっかり暴露してしまった情報によれば、EUの場合はファイザーが12ユーロ(約1520円)、モデルナが18ユーロ(約1850円)ということだ(ベルギーのニュースサイト『HLN』)。

Text by 山川 真智子