欧州議員の乱交パーティ摘発がスキャンダラスな理由

ヨージェフ・サイエル氏|Jean-Francois Badias / AP Photo

◆アンチLGBTハンガリーには痛い事件
 では第二の理由とは何か? それは、件の議員がハンガリー与党フィデスに所属することに由来する。欧州議会では現在、コロナ以後の復興計画の予算承認が暗礁に乗り上げているのだが、それはハンガリーとポーランドによる承認拒否が原因となっている。両国は、「司法の独立性や基本的権利の尊重を遵守しない国はヨーロッパの資金を得られない仕組み」(フランス24、11/17)を認められないとして11月16日、承認拒否を表明した。ポーランドは中絶の禁止、ハンガリーはLGBT差別などで近年欧州諸国の批判を呼んでおり、この項目のせいで援助資金が受けられなくなることを警戒したのだと思われる。

 件のサイエル議員は、ハンガリーの憲法起草に携わるなど、ヴィクトル・オルバーン内閣で重要な位置を占めており、「同国の掲げる道徳秩序を体現」する人物であり、「アンチLGBT」の先鋒にいた人物なのである(ル・ポワン誌、12/4)。そんなサイエル議員が、同性愛者の乱交パーティに参加していたという事実は、ハンガリー政権にとっては非常に痛いスキャンダルとなった。

 同議員は事件が明るみに出る前日の11月29日に、「個人的理由」で政界からの引退を表明しているが、欧州議会からの辞任は2021年1月1日付となる模様だ。

◆LGBTコミュニティは歓迎?
 とはいえ、西側諸国のメディアは、この事件により明らかになったサイエル議員の性的指向についてはむしろ好意的と言える反応を見せている。フランスのル・ポワン誌は、「政治的な考えに合致していないことから、彼のセクシャリティは公にされることがなかった」ことを「悲しいことだ」と表現しているし、ベルギーのシュッド・インフォ紙(12/5)は、LGBTの新たなアイコンとしてローマ市中に登場したサイエルの絵を紹介している。これを描いたストリートアーティスト、ライカは、「サイエルでさえ、政党から身を隠すことなく、自分のセクシュアリティを思うように自由に生きられる世界を夢見る。不寛容さに、強烈な一撃を食らわせた彼に感謝」(同)とコメントを寄せている。

 ル・ポワン誌によれば、同議員のカバンから発見されたという麻薬については、警察は追及しないことを決めたため、サイエル議員が犯した罪は、ベルギーのロックダウン規則違反だけということになる。政界から身を引き、これから歩むことになる第二の人生。逆風は多かろうが、少なくともこれまで彼が厳しく対峙してきたLGBT界だけは、寛容な姿勢を示しているというのも皮肉なものだ。

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Text by 冠ゆき