イギリス揺るがす首相顧問の違反外出 「陰の実力者」カミングス氏とは

Jonathan Brady / Pool via AP

◆ジョンソン首相のラスプーチン? ドミニク・カミングスとは
 ドミニク・カミングス氏は、保守党のイアン・ダンカン・スミス元党首の戦術顧問、マイケル・ゴーヴ議員の特別顧問など、過去20年に渡り政治に関わりを持ってきた人物だ。2016年、EU離脱の是非を問う国民投票の際には反EU派のキャンペーンに参加。データ分析、ソーシャルメディア広告を多用し、事実を大袈裟に喧伝するなどの手腕によりイギリスをEU離脱へ導いたとされる。

 その後2019年7月にジョンソン氏が首相に任命されると、カミングス氏は首相の最高顧問となり、同年12月の総選挙を提案し、保守党を大勝利に導いた。今回の新型コロナ対策にも重要な役割を担うなど、政権の方針に多大な影響を与えている。

 昨年、EU離脱の国民投票時のキャンペーンの際のカミングス氏役にベネディクト・カンバーバッチを起用しドラマ化した「Brexit: The Uncivil War」が放映され、世に知られる存在となっていた。

 自身の右腕であるカミングス氏についての今回の報道について、ジョンソン首相は24日、「両親が2人とも新型コロナに罹患し、幼い子供の世話をする人がおらずほかに選択肢がなかった」「彼の行動は合法である」などと擁護し、最高顧問として解任する意思はないとしている。

◆民主主義下で「権力の番犬」が機能するイギリス
 かねてより、イギリスのメディアには、ことジョンソン氏についてとなると、語気は強く、主張は明らかに、首相としての資質を問う記事を載せるところが多い。

 その最高顧問であるカミングス氏についても、以前から、保守党員であった事もなく、投票で選ばれたのではないなか政権に大きな影響を与えている事に対する反発が感じられる記述は散見された。

 今回、氏は両親の家から約50メートル離れたコテージに滞在し、両親との接触はなかったと説明しており、法律違反を証明するのは難しいかもしれない。しかしながら、多くのイギリスメディアは、1面を割くなどし、毎日カミングス氏の件について、氏の経歴とともに大きく報じている。報道の多さが認知度に貢献しているのか、英国営メディアBBCが26日に伝えたところによると、世論調査会社YouGovの調査結果で、71%の人がカミングス氏は法を破ったと考えており、59%の人がカミングス氏は辞職すべきと考えている事がわかった。

 28日付のガーディアン紙は、現時点で、保守党議員のうち45人がカミングス氏は辞任か解任になるべきと考えている事を表明しており、54人がカミングス氏を批判している事を、議員の名前とともに伝えている。

 EU離脱決定の国民投票結果には世界中が驚かされたが、今回の件により、イギリスでは、報道が権力に屈せず持論を主張している事、国会議員が国民の世論を無視する態度を取れない事が改めて炙り出されたように思われる。つまりは、かの国では民主主義が機能しており、人々が進むべき正しい道を模索している状態にあると言えるのではないだろうか。

Text by Tamami Persson