富豪との癒着疑惑だけではない、物議を醸す米最高裁判事の行いとは

クラレンス・トーマス米最高裁判事|J. Scott Applewhite / AP Photo

◆論議を呼ぶトーマス判事の行い
 1972年に起こった政治スキャンダルであるウォーターゲート事件を受けて、1978年に「政府倫理法(Ethics in Government Act of 1978)」が制定され、行政部門と司法部門の公務員に財務開示が求められている。この法律のもと、判事や裁判官は(415ドル以上の)価値があり弁償ができない寄贈品に関して、公に開示しなければならない。司法関係者のための開示マニュアルによると、知人の個人宅で提供される飲食や宿泊に関しては例外が認められているが、プライベートジェットやヨットのような交通手段に関してはその例外が適応されない。また、プロバブリカは、クロウが個人ではなく会社を通じて所有するリゾートへの招待に関しては、開示義務の範ちゅうであるとの専門家の見解を示している。

 トーマス判事は4月7日に出された声明文で、クロウ夫妻は25年以上親しくしている友人で何度も一緒に旅行をしており、こうした旅行などはあくまで個人的なおもてなしで、開示義務の適応外であると認識していると主張した。150単語程度の短い声明文では、プロパブリカが指摘した具体的な癒着疑惑については触れられていない。一方、クロウもプロバブリカの取材に対する声明文にて、クロウ夫妻とトーマス夫妻は親友で、彼らやほかのゲストが裁判などに関する議論やロビー活動をしたことはないと主張した。

 トーマス判事は1967年から1991年まで在任したサーグッド・マーシャル(Thurgood Marshall)に続く、アメリカ史上2人目の黒人の最高裁判事。現在74歳のトーマス判事は1991年にジョージ・ブッシュ大統領によって指名されてから32年間その座につき、終身制であるアメリカの最高裁判事の最長在任記録である36年に近づきつつある。

 しかしながら、判事のキャリアにおける論争は本件が初めてではない。最高裁判事の人事案が上院を通過する前に、トーマス判事は以前自身のアシスタントとして働いていた法律専門の黒人教授アニタ・ヒル(Anita Hill)からセクハラの告発を受けた。上院での投票結果は52対48と賛否が分かれた。また、2021年1月6日に起きた米連邦議会議事堂襲撃事件に関してのトランプ大統領の責任追及の議論を忌避した。トーマス判事の妻で保守派の弁護士・活動家であるバージニア・トーマス(Virginia Thomas)は、2020年の選挙結果は不正だとするトランプの主張を支持し、選挙結果を覆すような活動を行っていた。昨年、最高裁が中絶の権利を否定する決定を下した際も、トーマス判事の見解は物議を醸した。

 トーマス判事は2007年に自身の回顧録を出版し、著書は同年のある週にニューヨーク・タイムズのノンフィクション部門のベストセラーにランクインした(ちなみに同年のほかの週ではバラク・オバマ、アル・ゴア、ロナルド・レーガン、ビル・クリントン、アラン・グリーンスパンなどさまざまな政治家たちの著書がベストセラー入りしている)。2020年には、トーマス判事自身が半生を語るドキュメンタリー映画もリリースされている。

 今回の報道が、今後のトーマス判事のキャリア、言動、そしてレガシーにどのような影響を及ぼすのか注目される。

Text by MAKI NAKATA