語学教育の域を超えたアメリカの「イマージョン教育」とは? ある日本語教育の取り組み
◆年月が可能にしたサステナブルなコミュニティ構築
現在「親の会」の事務局長を務める山中緑さんは、同プログラムに在籍する中学生の母親でもある。「親の会」の存在意義は、「ポートランド公立学校の日本語イマージョンプログラムの文化教育のレベルを向上させることだ」と話す。
保護者による積極的な関与により、PPSの日本語イマージョン教育はどのように進化してきたのか? 「長年日本語イマージョン教育を行ってきたことで、サステナブルなコミュニティ作りができている。たとえば、夏休みに親の会が主催するサマーキャンプには、高校生のボランティアを募るが、多くのボランティア学生は、自分が小学生の頃にキャンプに参加していた学生たちだ。恩返しのような気持ちで参加する高校生も多い。また参加する小学生は、日本語を自由に操る年上の高校生に憧れを持つ。このサイクルは非常に意味があると思う」と話す。
さらに3ヶ月に及ぶ長い夏休みの間に、参加者もボランティアもともに日本語や日本文化に触れ続け、没入感を保ち続けることができる仕組みを持っていることで、イマージョン教育の質を保ち続けられている。
しかしコロナ禍で、短期留学の機会を喪失するといった厳しい状況が続いている。そんななかでも、山中さんらはオンラインを通じた日本の提携校とのコミュニケーションを続けている。「(PPSのなかで日本語イマージョン教育を提供している)リッチモンド小学校では、パンデミック以前には年に2回、親の会がイベント的な形で日本のカレーライスや焼きそばを「温かい給食」として提供していた。ここ数年は開催できていないが、こうした食文化を共有する機会は、ぜひまた再開させたい」と話す。
なお、長年給食イベントを提供してきたなかで、現在では「焼きそば」が学校区の小学校全体で給食メニューに採用されているという。そして、焼きそばは2019年の食育団体による小学生の全米トップ給食において、麺部門の1位を獲得するほど人気があるメニューだという。なお、給食メニューに加えるために、栄養評価の面から焼きそばの麺を全粒粉で作らないといけないという大きな課題があった。しかし、麺作りに従事する日本語イマージョン教育の卒業生の協力で、提供が可能になったという逸話もある。
日本において、英語教育が公立小学校で指導要領に加わって丸2年。日本の外国語学習に関する効果はまだ計り知れない。だが、そもそも外国語教育を幼少期から与えることの意義をどれだけの日本人が意識しているだろうか。アメリカのイマージョン教育の取り組みは、外国語教育の意義を考えるきっかけになるのではないだろうか。
在外ジャーナリスト協会会員 寺町幸枝取材
※本記事は在外ジャーナリスト協会の協力により作成しています。
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