イスラム世界は襲撃犯を賞賛 ラシュディ氏襲撃事件への反応

Grant Pollard / Invision / AP Photo

◆身を隠す日々 表現の自由を問う
 ホメイニ氏によるファトワ以来、ラシュディ氏は計り知れない命の危険に直面し、『悪魔の詩』の影響はその後数十年にわたって続くことになる。常に身を隠さなければならなくなり、禁書、焚書、爆破や殺害などの脅迫は続いた。スペインのスポーツ紙アス英語版は、世界中の芸術における表現の自由が問われることになったとしている。

 ホメイニ氏の死後10年が経過して、イラン政府はラシュディ氏の命に対する脅迫を「支持も妨害もしない」ことを示した。その一方で、民間団体や宗教財団はラシュディ氏殺害の活動を支援し続けた。ラシュディ氏自身は2012年には公の場に復帰し、逃亡者としての潜伏期間についての回想録も発表している。

◆イスラム教徒の反応は? 荒れるソーシャルメディア
 今回の襲撃がファトワに関連したものかどうかはまだわからないが、フランスのマクロン大統領やカナダのトルドー首相など、各国のリーダーや著名人が犯行を非難するコメントを出している。一方、イラン政府はコメントを控えたと中東メディア、アルジャジーラは報じている。

 イランの一般市民からは、イスラム教を侮辱したラシュディ氏が襲撃されたことは喜ばしいという声が聞かれたという。イランの複数の新聞も、襲撃犯に賞賛の言葉を送っている。しかし、核合意をめぐる緊張が続くなか、イランがこの事件をきっかけに世界からさらに孤立すると心配する人もいるという。(アルジャジーラ)

 ソーシャルメディア上では、襲撃犯を賞賛する書き込みが多数あり、英雄と持ち上げ、さらなる暴力をほのめかすユーザーもいたと英i紙が報じている。ラシュディ氏の襲撃についてコメントした作家のJ・K・ローリング氏に「次はあなたの番だ」と返信したユーザーもおり、同氏は脅迫として警察に届け出た。

 イスラム教国のパキスタンでは、ラシュディ氏の襲撃を受けて著名な作家から深い沈黙が生まれているとガーディアン紙は指摘する。事件について話すだけでも非難と死の脅迫を受ける可能性があるからで、同紙が意見を求めた作家たちからはほとんど返事がなかったという。強い信仰心が言論・表現の自由を求める人々を萎縮させる状況は、いまも続いている。

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Text by 山川 真智子