延命めぐり病院と親が法廷闘争 英12歳少年、生命維持装置停止で死去

Hollie Dance via AP

◆家族を襲った最悪の二重苦
 家族は生命維持装置が取り外される瞬間に立ち会い、アーチー君が亡くなるまでの一部始終を見届けた。装置が完全に取り外されるまで、2時間ほどは安定したバイタルを保っていたという。同席した親戚はガーディアン紙(8月6日)に対し、「家族や子供が窒息死するのを見るのは、まったく尊厳のないことです」と語っている。無言のまま徐々に青ざめていくアーチー君を見て、ひどく心を痛めた模様だ。

 BBC(8月8日)は、家族が発表した声明を伝えている。それによると家族は、息子が生死の淵を彷徨うという「想像を絶するような悲劇」のさなか、ホスピタルトラスト(英公立病院の運営組織)によって「容赦ない法廷闘争」を余儀なくされたと述べている。家族らの声明はまた、「この制度により私たちは崖っぷちに立たされ、あらゆる権利を剥奪され、考え得る限りの不条理のなか、アーチーの『最善の利益』と生存の権利をめぐり争うことを強いられたのです」とも述べ、苦しい状況を強調した。

◆制度のあり方に疑問の声
 英カーディフ大学のイローラ・フィンレー教授(緩和医療)はBBCに対し、延命治療停止の有無が裁判所に委ねられる現行制度の問題点を語っている。教授によると、裁判という「対立的なシステム」に持ち込まれることで、家族は患者本人に付き添う時間を奪われる。さらに病院や医師らも、当該の患者とそのほかの患者に対応する時間を削らざるを得ないという、双方にとって負担のある状況になりがちだという。

 他方、生命維持装置の停止は場合によって適切であると指摘する医師もいる。英オックスフォード大学のドミニク・ウィルキンソン教授(医療倫理)はニューヨーク・タイムズ紙(8月6日)に対し、医療は根本的により良い人生を楽しむために存在するとの持論を述べている。そのうえで、「しかし時として医療は、死期を引き延ばすことしかできないのです」と述べ、過度な延命治療に否定的な考えを示している。

 アーチー君と家族が経験した苦い事例は、今後のイギリスの医療のあり方を変えるきっかけとなるだろうか。

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Text by 青葉やまと