「胎児入れると2人乗りだった」交通違反に妊婦が反発したワケ 中絶禁止で問題派生

Jason Janik / The Dallas Morning News via AP

 このように、共和党は妊娠中絶に関しては胎児を人間として扱っているのに、HOVレーンでは人間として扱わない、などという矛盾が生まれてきている。HOVレーンだけではなく、これは税金申告や生活保護などの扶養人数や、胎児の両親が未婚だったり離婚したりした場合の父親から母親への養育費の金額などにも関わってくる。もちろん、とくに母親は妊娠中に胎児の分まで食事に気を使ったり、胎児の成長に必要なサプリメントを摂ったり、定期的に医師の診察を受けたり、また父親が一緒にいない場合は、自分で洋服や家具などを用意したりと、経済上・健康上でさまざまな出費を強いられることになるため、受胎後すぐに養育費支払い開始となるのは大歓迎だろう。しかしまだ正式に名前もついておらず姿も見えない胎児に、法律上で出生後の人間と同じ権利を本当に与えられるのだろうか?
 
◆保守派が開けた「パンドラの箱」
 前出のボトーンさんの一件は起こるべくして起こった事例と言える。この件についてテキサス州の裁判所がどのような判決を下すかに注目が集まっているが、保守派議員たちが「胎児は1人の人間」と法律で決めたのであれば、もちろん妊娠中絶以外のほかの分野でも、それが同じように適用されるべきだろう。「この場合は人間、この場合は人間ではない」などという区分けはできないはずだ。

 「胎児は1人の人間である」という理由から中絶禁止の法律を施行した州では、今後このようにありとあらゆる矛盾点が次々に出てくることは必至であり、そのたびに誰かが州政府を相手取り訴訟を起こす結果となるだろう。これはいわば、保守派の人々が過去50年近くも閉ざされていた「パンドラの箱」をうっかり開けてしまった当然の成り行きなのである。

【関連記事】
中絶のために他州に行くと逮捕される? バイデン大統領は州の動きを予測
米、女性の権利の格差広がる 中絶禁止州の女性は他州で手術
「避妊と同性婚も見直しを」米最高裁判事 中絶の権利の次の標的

Text by 川島 実佳