ウイルスが宿主の匂いを操り、蚊をおびき寄せている可能性 研究

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◆蚊をひきつける匂い、アセトフェノン
 6月30日に米科学誌セルのオンライン版に掲載された研究によれば、ヤブカは匂いの分子の一つのアセトフェノンにひきつけられる傾向があることがわかった。

 アセトフェノンは、皮膚上で増殖するバチルス菌によって作られるが、通常、ヒトの皮膚はバチルス菌の数を抑える抗菌ペプチドを生成するためバランスを保っている。ところが、デング熱やジカ熱の原因となるフラビウイルス科のウイルスに感染すると、抗菌ペプチドの生成が抑えられ、その結果バチルス菌が増え、アセトフェノンも増加する。つまり、健康な人よりもデング熱やジカウイルスに感染した宿主の皮膚のほうが、アセトフェノンを多く放出し、それにより多くの蚊をひきつけるということだ。

 感染者を刺した蚊は「ウイルスの運び屋」となり、より素早いウイルスの拡散に貢献するわけだ。このことは、「ウイルスが宿主を操作して蚊を誘引している」可能性を示唆するものだ(コネチカット大学、6/30)。

◆ビタミンA誘導体によるアセトフェノン放出抑制
 続いて研究者らは、デング熱に感染したネズミにビタミンA誘導体の一種イソトレチノインを与える実験も行った。イソトレチノインは皮膚の抗菌ペプチドの産出を増強することが知られている。実際、イソトレチノインを投与されたネズミにおいては、アセトフェノンの放出が減少した。

 ヒトにおいても同様の効果がみられるかどうかはまだわからないが、研究が進めば、蚊に刺されるリスクを減らす対策の一つになるかもしれない。いずれにしても、蚊対策は、蚊との闘いというよりもウイルスとの闘いなのだ。

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Text by 冠ゆき